ゲイに限定されないイギリス文芸の新潮流。
ゲイノベル、ゲイ文芸というと、その内容・テーマ・メッセージから、自然と読者がゲイに限定されてしまうものですが、アラン・ホリングハーストの「スィミングプールライブラリー」は「一ゲイ小説」としてではなく、「一小説」として読者を引き込む大作であり怪作であると思います。この作品は「ペダンティックで読んでいられない!」という批判もある一方で、知的でセクシーな文体は十分に魅力的です。主人公ウィリアム・ベクウィスはくだけた性格ではあるが、貴族でありオックスフォード卒でもあり、気取りや自分なりの哲学(ゲイ哲学?)を持っていて下品ではない。そこが鼻持ちならないと感じさせてしまう所でもあるのですが。そしてもう一人の主要人物・老貴族のナントウィッチ卿もなかなか愉快です。ウィリアムはナントウィッチから自伝の執筆依頼を持ちかけられ彼の古い日記を読むことになるが、その日記により1910年代のパブリックスクール、そして20年代のアフリカに時間をさかのぼるのが、面白い効果を生んでいます。
本作品はゲイとしての誇りをひそかに漂わせている一方で、エイズに揺れる前のイギリスゲイ社会への追憶の記録でもあり、なかなかメッセージ性の深く、それがこの作品の文学的価値を高めていると言えます。