バスの中から見る現実
知的障害をもつ妹の唯一の楽しみは、毎日、バスに乗ること。夜が明ける前の暗いうちに家を出て、一番バスに乗りこむ。彼女はバス路線はもちろん、ドライバーの仕事のシフトまで調べ上げている。そんな彼女を毛嫌いするドライバーもあるが、暖かい手を差しのべる人もある。作家である姉は、この妹の行動に一年間、つきあってみて、それまで知らなかったさまざまなことを体験する。 アメリカ映画にときどきある小品の、人間のぬくもりを感じさせるオハナシかと思って読みはじめたが、日常にひそむ暴力や、家族のエゴとエゴのぶつかりあいなど、作家の目はなかなか鋭い。父親の不倫や、現実の重みにたえられず、ロクでもない男にひっかかってしまう母親、妹に恋人が出来てセックスをするようになったとき、不妊手術をさせるかどうかの決断、作家らしい描写は、登場する人物を映画の印象的な脇役のように描きあげる。
翻訳も出ていて、妹のたどたどしい手紙など、苦心して訳しているが、当然とはいえ、英語で読んだときの印象とはかなりちがう。文章は平易で、小説を読むように読むことができる。アメリカの社会の一面を知るための貴重な一冊。
ニューエイジの寓話のような本当の話
中東問題、銃問題、環境問題、独善的なグローバリズムの押し付けなどから、私は「アメリカ」という国に反感を抱き始めていたのだけど、この本を読んで個々の「アメリカ人」の懐の深さにしみじみ感動した。 ぺンシルバニア州の中規模工業都市、このどこにでもあるような町の平凡なバス運転手達が皆それぞれの哲学を持ち、日々を懸命に生きていること、また彼らのバスを乗り継いで1日を過ごすべス(38歳、作者の妹)が「知的障害」という言葉ではくくれない個性の持ち主であることを、作者は自らの「気付き」を通して丁寧に語っていく。
ときどきに妹に付き合ってバスに乗って過ごした作者が1年の間に変化していく様子がとても爽やかだ。バスの運転手達の含蓄のある言葉、障害をものともしないベスの強さ、そして彼女がそう生きることを可能にするアメリカの社会保障システムや彼女にかかわる人々の優しさにも感心した。しかし、きれい事だけでなく、並行して語られる著者の子供時代の思い出は悲惨なものだ。だからこそ、作者が変わっていき、心を開いていく様子に感動する。ぜひ映画化してほしい。そして、ラスト近くの山の頂からの風景を映像で見てみたい。
人間の尊厳を考えさせられた本。
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