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僕が批評家になったわけ (ことばのために)

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僕が批評家になったわけ (ことばのために)の商品レビュー

5.0 風通し
「批評とは、本を一冊も読んでなくても、百冊読んだ相手とサシの勝負ができる、
そういうゲームだ」

本作によって、これまでの著者の作品について
一貫して感じられていたものが少し明らかになった、
自己分析のような本である。

好きな小説家、作品、あるいはテーマについて
より深く知りたいと思うことがある。
そんなときにだけ、批評や解説書の類に手を出してきた。
批評という言葉を特別に意識したことはなかったのだけど、
いまこうして書いているレビューが、ひとつの批評だということか。

もちろん本作を読んだうえで書くのだが、
文中で引用されている「徒然草」や内田樹、レヴィナス等の作品は
未読である。
だけど「徒然草」はちゃんと読みたいと思った。
レヴィナスはちょっと敷居が高そうだ。
その敷居の高さについては本作中に言及されている。
著者の意見が正しいかどうかは分からないが、
そのことにより敷居は低くなった。

「『面白い』こそ、誰にも開かれたスタート地点である」
そう言ってもらえると風通しがよい。
1.0 他者をもたない「独学者」
 難しい本である。
 例えば著者は、「難しいことを考え、難しいことをいう人は、批評的には、簡単な人である。何を考えているのかすぐにわかる。批評的に難しい人は、何を考えているのかわからない。こういう人の書くものは、平明だが、難しくて、読んでいると、面白い。」と言う(P.182-P183)。では、著者は批評的に簡単な人なのか、難しい人なのか、本書を読んでもよく分からない。よく分からないということは、難しいことをいっているわけで、何を考えているのかわからないわけだから...結局、どっちなの?
 例えば著者は、‘ロック’評論家渋谷陽一氏の、雑誌『ロッキング・オン』に載った『渋松対談』を引用し(P.52-P.59)、彼の自己戯画化を高く評価するのだが、これは著者の大きな誤解だ。なぜならば、自己戯画化とは普段は戯画でない人間のみが出来ることであり、渋谷氏は日本のロックの戯画そのものだからだ。そもそも引用されているところで読者が一番知りたいことは渋谷陽一vs.今野雄二の議論の中身であって、著者が自分の論の都合の良いように論点をずらしてしまう(=他者の不在)と、批評家としての信用を失ってしまうのではないのか?
 著者にとって批評とは「ことばで出来た思考の身体」(P.3)ということだが、とりあえずいったとしてもこれは同語反復でしかない。例えば、「『サブカルチャー』とは別にアニメとかゲームとか特定のジャンルを指すものではなく、ましてや『サブカル』と言われるような流行の一種を指すものでもなく、メインカルチャーが社会的なヒエラルキーを作り出している時に、そこにポコポコと穴を開けていって、メインカルチャーでは到底想像すらつかないような種々雑多な文化の流れを実現していく、そういう運動を指す言葉だと思うわけです。ですから、僕は批評家なわけですが、サブカルチャーへの参加なくして批評家はあり得ないし、またサブカルチャーなくして文化のダイナミズムも何もない、そう感じています。」(『網状言論F改』 青土社 P.22)というのが東浩紀氏の‘僕が批評家になったわけ’であるが、著者にも今後このような‘平明さ’を望む。
4.0 作者の言うとおり“批評というのも悪くないかもしれない”
 “批評とは、本を一冊も読んでなくても、百冊読んだ相手とサシの勝負ができる、そういうゲームだ” 。この言葉は、著者が駆け出しの頃、柄谷行人の本の書評を書いた際の心持ちを思い起こし、あらためて言葉にしたものだ。この言葉は勇気と希望を与えてくれる。「あんなこと書いちゃって良かったんだろうか」という悶々とした夜を過ごした後の開き直りの言葉であるってところが大事なんだと思う。著者は決して“本を百冊読むこと”に意味が無いなんてことは言ってはいない。重要なのは本を百冊読まずとも、その時感じたことを書けってことだ。
 この本には他にも面白いことが書いてある。“書いた人間がくだらなくても、読む人間がすぐれていると、書かれたものはすぐれたものとして読まれるということがありうる”とか。これなんか、作者が上にいて読者は与えられたものを読むだけ、って価値観を覆す。作者すら意図してなかったことを“読む”ってのはかっこいい。あるいは“批評の連鎖性、独立性”。批評に批評が連なっていったり、オリジナルを知らなくても批評の言葉にマイっちゃったり。もちろん批評を読んでオリジナルを読みたくなるってことはよくあるわけだし。
 本の性格上、総花的な部分もあるけれど、戦時下の文学のあり方とか、私小説の成り立ちとか、理科系の言葉とか、この本には、本を読むことや考えること、言葉にすること、それを誰かに伝えること、そういったことに興味を持つためのフックがありとあらゆるページに盛り込まれていると思う。
 とりあえず僕は、この本を読んで、「徒然草」と深沢七郎を読み返し、内田樹と「富士日記」を読んでみたくなった。
5.0 おにぎりではなく、おむすびなのだ
2005年上半期のマストバイ&ベストバイ。「批評」「評論」を今を生きる人の目線、立脚点、皮膚感覚、呼吸で語っている。彼の、これまでの硬質なテーマ設定になじめなかった人も、この書のリズムには乗ることができるのではないか。平明さ、ということを真っ正面からとらえて21世紀に踏み出した覚悟、潔さなどを感じた。「一階の視点を手放さないこと」での論考は秀逸。『ポッカリ空いた心の穴を少しずつ埋めてゆくんだ』(クレイン、2002年)から3年。そこでの「オンとオフ」で指摘していた、提案していた境地を、より自分のものとして消化吸収したレベルで今回論じることに成功している。
読後のすがすがしさは近年稀にみるものである。知り合いに連れて行かれたお寿司屋さんで、すっかり意気投合し、閉店後に出された普段は賄い用の「おむすび」を頬張り、お米の一粒一粒が口の中ではらりとほどけていく快感と、同時に、その店の寿司の旨さの一端を垣間見るとでもいおうか。ことば、から離れられない人は是非とも目を通すべき1冊。
5.0 僕が批評家になったわけ
1 全編どこを切り取って読んでも「後書き」かしらんと思ってしまう本
2 加藤典洋さんの「転轍」という概念のヒントが随所に見受けられる本
3 自分にはどこかで引っかかっていた内田樹さんの秘密、
  もっといえばレヴィナスのわかりにくさをほぐしてくれた後半は、
  ありがたかった。

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