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月と六ペンス (岩波文庫)

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月と六ペンス (岩波文庫)の商品レビュー

5.0 “月”と”六ペンス”:夢と理想、そして現実との意匠こそが人生である
『月と六ペンス』の刊行に魁けること6年、モームは38歳にして『人間の絆』の執筆に取り掛かっている。3年後の41歳の時分、後者が前者に先立って世に出ている事実は、結果論からすると、人生の妙とはまさにこのことであろう。なぜならば“モームの最高傑作”とされる『人間の絆』の出版当時の評価は決して高くはなく、モーム44歳、『月と六ペンス』の刊行後に、初めて彼は作家としての名声を不動にしたからである。モームは『人間の絆』出版の翌年(42歳)、『月と六ペンス』の執筆の為に早速タヒチ島に赴いている。これは後世に永遠の名著となった『人間の絆』の延長線上に、本著『月と六ペンス』があった事実を如実に物語っている。“人生には意味はない。故に「人生」という名の異なる意匠のペルシャ絨毯を、個々人が各々に作り上げていけばよいのだ”という『人間の絆』の強いメッセージが、『月と六ペンス』ではゴーギャンをモデルに、彼自身が独特に練り上げたストリックランドという人物の生き様を通して改めて主張されている。かつての私小説的な精神的吐露が、より親しみやすい“文学”としてここに結晶化したのである。普通のサラリーマンであった“はず”のストリックランド。しかし40歳での“目覚め”を経たのち、彼は仕事を辞め、家族をすて、かつての志であった画家としてタヒチで魂の日々を過ごす。その地で“壮絶に”朽ち果てるものの、彼にとってみれば、自己に回帰し、自身に忠実に生きた、すこぶる有意義な生涯であったのだ。「月」は夢や理想、「六ペンス」とは現実のことを意味するという。本著者のモーム自身は「月」ではなく、91年間の生涯を「六ペンス」として生きることを選択した。これもまた彼自身による“ペルシャ絨毯”なのだ。両書を合わせ読む。すると、自己にもっと忠実に生きて『サミングアップ』したかったのかもしれない彼との会話を、より一層楽しめることだろう。
5.0 モームもいいね
 私はこの小説を読み始めたとき、自分の欲望に忠実な主人公=ストリックランドがどうしても好きになれませんでした。読み進むうち、タヒチに安住の地を求め、狂ったように描き続ける姿勢、後半になって、重病に罹り最後盲目になっても絵を描き続ける姿には、崇高さを感じずにはいられませんでした。いつしか、この好きになれない主人公に少し好感を持つようになっていました。

 ところで、最後の絵はいったいどんな絵を描いたのでしょうか、興味があります。
ゴーギャンの絵のなかにそれらしき大作(題名を忘れました)がありますが、私としては、それよりももっと激しく、なんといいますか、人間の欲望、夢、あらゆるものが渾然一体となった、魂をわしづかみにされるような強烈な絵を想像したいのですが。



5.0 原書を読みたくなる翻訳
 「月と六ペンス」、そのタイトルを人は面白いと言うかもしれないが、私は少し違和感を覚え、長いこと読まずにいた。しかし今回読んでみようという気になったのは、行方氏の訳のお陰と言えるかもしれない。何気なく開いた最初の1ページが実に読みやすかった。というよりは、自分が読んでいるのではなく、何か語られているような気にさせてくれるほど自然に作品の中に導かれた。
 人間が生きていくためには、夢や理想(月)を追うことも、現実の世界(六ペンス)を知ることも欠かすことはできないであろう。しかし、チャールズ・ストリックランドは現実の世界を切り捨て、絵を描くという夢を追い求める。自分自身には実現不可能な世界だけに、大変興味深かった。
 また、果物の絵の色づかいの表現で、「くすんだ青は、ラピス・ラズリーを精巧に刻んで作った盃のように不透明でありながら、同時に、神秘的な生命を暗示するような光沢があって・・・」という箇所は、原書ではどのような単語が用いられているのか知りたくなった。絵画にも造詣が深いといわれる行方氏だからこそ訳すことができた箇所なのであろうか。いずれにせよ、翻訳本を読んで原書を読みたくなるような気にさせてくれる本書は、英米文学を専門としない読者にとって、ある意味で実に教育的な本とも言えるかもしれない。
5.0 古典らしい古典
この新訳をめぐって、賛否両論、気になって、私も買ってみました。中野訳は、明日図書館で借りようかな。(しまった、明日は町の図書館は休館日だった!)
いろいろな訳が出る、ってことは古典の証拠。古典は、ダイヤモンドみたいなところがあって、どのカット面から眺めるかで、千変万化。それが古典のいいところ。中野訳を借りて、比べてからもう一度書き込むかも…。
5.0 若い読者に薦めたい
若い人たちが人生の答えを求めて読書をするということが最近減って来たように思われる。
この本のように、人間観察の妙を知り尽くした作家による、骨太な人生論、芸術論は時代遅れなのかもしれない。しかし、この本のように読みやすい訳があることで、もう一度若い読者を引きつけることができるのではないだろうか。表紙に「新訳」とあるので期待して手に取ったが、その期待を裏切らない、見事な訳であった。複雑な内容を平易な日本語で伝えていて、すっと入り込みやすい。この本を薦めて、今一度読書の妙を若者たちに伝えたい。

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