繊細で美しい表現
アンチユートピア小説のなかでも、「クリスタル派」と呼ぶべきような作品。
数学用語などを多用しながらも分かりやすく、ザミャーチンの描く近未来の世界が鮮やかに表されている。また、川端氏の訳も非常に美しく、おもわず唸ってしまうような日本語表現が随所に見られ飽きさせない。主人公の内面の変化が丁寧に描かれる一方、SF小説顔負けのスリルとスピード感があり、
非常に読み応えある作品である。
モノフォニーの中の不協和音
社会主義、全体主義国家ロシア、そこには「わたし」はなく、「われら」があるのみである。「わたし」は「われら」の一部となる。そこでは様々な「わたし」が発するポリフォニーは聞こえてこない、聞こえてくるのは「われら」の発する一つのモノフォニーである。そのような社会、「われら」の社会の中で「魂」を持ってしまった男、統制されたモノフォニーの中に生まれる不協和音、それはやがて幾万の「わたし」たちの発するポリフォニーへと変わっていくのだろうか。
「私は私であり、独立した存在、一つの世界であった。わたしはいつものように半端な数であることをやめ、一という整数になったのである」ということに気がついた男のたどった結末は・・・。
そして本作でロシアの社会主義体制と西欧の科学技術が融合したアンチユートピアの世界を描いたロシア文学の異端・ザミャーチンもまた反ソ主義者であるとして長くロシア文学史から抹消されることとなったのである。