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『心変わり』 著者・ミシェル・ビュトール 訳・清水 徹 / 岩波書店 ISBN : 4003750616 ¥900 「ヌーヴォー・ロマン」と呼称される、1950年代以降の膨大な文学作品群のなかにおいても最高レヴェルを誇るハイ・ファイな画質を脳内に流入させる、1957年発表の<2人称小説=フィルム>。 「言語に拠る人類救済」をも目的としていたマラルメを私淑していたミシェル・ビュトールにとって、「生きているテクスト」を「建築する」という命題は決して一笑に臥されるものでは無かった筈だ。 我々読者と主人公の男性とを共に「きみは〜」と定位し上映されてゆく本作品は、読者である「きみ」自身がこの「フィルム内世界」におけるアクター/アクトレスとして生き、逡巡し、愛することを可能たらしめる。 パリからローマへと向かう三等列車の窓に滴り落ちる雨の雫から、柔らかなベッドの中にてささやく愛人の表情のわずかな翳り、といった細部にまで至る、「肉眼と完全に同質の光景」と「作品世界内の時間」らが読むものの意識に侵入してくる様は、「真夜中にまざまざと上映される、DVD並みに鮮明な夢」の知覚を遥かに凌駕していると云っても過言では無い。 この小さな書物のページを手繰ってゆくあなた=主人公「きみ」の「現在」の意識内容と、「過去」の回想、そして「未来]への回想。この書は”生きている”。 この書物の内部へ呑み込まれた「きみ」(読者であるあなたの事だ)と愛人「セシル」との逢瀬、愛の歓び、ローマの美しき陽射しと光景、荘厳さを湛えた古代美術、それら総てが内包する≪聖なるもの≫(ロジェ・カイヨワ)が、読者であるあなたのおぼろげな記憶と混ざり合い、混濁し境界線の消失した反/非時間だけが透明な静けさのなかにゆるやかと流れてゆく。