冷静な議論。英語教師批判は注目すべし。
日本の英語教育と言うと何か教育史的なものを思い浮かべがちであるが、
この本はむしろ、これからの日本の英語教育がどのような政策のもとで
行われるべきか、あるいはどのような方法論を採用すべきか、といった
ことを講じるという性格のものである。著者はこれからの日本にとって
の英語の必要性を認めており、日本人が英語ができないのはそもそも
必要ないからである、という一種の開き直り的な姿勢は採っていない。
そして、英語の必要性を確信した上で彼は、現在の日本の英語教育が理念も
入念な政策も欠いた極めて『危うい』ものであり、漠然とした会話願望に
引きずられて迷走している感があるということを嘆き、義務教育としての
英語教育に相応しき根本思想として『英語教育を通して日本国民をどう育てる
か』という発想を中心に据えることの重要性を説くのである。本書の中にオリ
ジナリティに富んだアイデアを発見することは難しいが、全体を通して
非常に客観的な議論がなされており、偏りがないという点では安心して
読めるものである。個人的な意見では、学習者の動機はあくまで実用的な
技能の向上に向けられるべきであるが、教師の側は同時にそのような
実践的な動機から行われる英語学習が学習者の知的能力や豊かな世界観の
養成にもつながるように工夫せねばならない、という著者の考えには大いに
賛同できるところがあった。また、第4章で著者が扱っている英語教師の
問題(教員養成の機構に潜む問題など)は、多くの人が意識しながらも
なかなか明確な形で論じられることのないテーマであるだけに、貴重な
議論ではなかろうかと思う。繰り返すが、全体を通して冷静な姿勢で
語られており、英語教育に携わる人はもちろん、英語教師になりたいと
思っている人や英語教育に関心のある学生などに読んでもらいたい一冊
である。(ただし、参考文献が巻末に明示されていないのは、
本書の性格から言って、相当に問題であると思う。)