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中年クライシス (朝日文芸文庫)

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中年クライシス (朝日文芸文庫)の商品レビュー

5.0 かくも危うく人間くさい中年という時期
昨年亡くなった臨床心理学者・心理療法家の河合隼雄が日本の文学12篇を取り上げ、そこに描かれている中年像から現代の中年が瀕する危機=クライシスを抉り出す。

この本で取り上げられている12篇は、
夏目漱石「門」
山田太一「異人たちとの夏」
広津和郎「神経病時代」
大江健三郎「人生の親戚」
安部公房「砂の女」
円地文子「妖」
佐藤愛子「凪の風景」
谷崎潤一郎「蘆刈」
本間洋平「家族ゲーム」
志賀直哉「転生」
夏目漱石「道草」

この中で読んだことのある本は、「人生の親戚」「砂の女」「道草」だけ。「人生の親戚」や「砂の女」は話の筋もほとんど忘れている。あと映画で見たのは「異人たちとの夏」、「家族ゲーム」。

河合隼雄はこの本の中で告白しているが、児童文学はおそらく職業柄か沢山読んできたけれど、大人の文学はほとんど読んで来なかったそうだ。今回のこれらの本も、本書執筆の為につぎつぎと読んだ本の中で、何らかの意味で感動した本たち。さすがは臨床心理学者、大人の文学はほとんど読んで来なかったとおっしゃるが、その読みは精密で本質をがっちり掴んでいる
。中年の危機を語るのに、氏が直面した数々の臨床例はあるのだけれど、それらを取り上げると、ことの性質上差し障りがあるので、既に公表されている文学作品にこと寄せて語るのだという。

この本の中にあるが、かの孔子様も「四十にして惑わず、五十にして天命を知る」とあり、四十才で不惑なのはすごいが、一方、自分が生まれてきてこの世でなすべき、天から授けられた命数を知るのは五十才だという。多分それも十分すごいことなのだろうとは思うが、孔子様にしてこのようなのだ。安定していて、元気で且つ時に、或いは人によってはギラギラしている中年男は実は第二の誕生に直面するような不安定さ、危機にも直面している。

本書は取り上げられているテキストを実際に読んでいなくても、この本だけで十分に楽しめ、味わえる。これを読むと、僕などは自分が不器用なためにゴツゴツした生き方をしているのではないかと思ってきたのが、実はそうではなくて、今現在何の疑念もなく世間の物差しにおける己の優秀さや金稼ぎの能力を誇っている、至極安定している(ように見える)中年も、今はよくても数年〜10年後に別の形の危機に瀕する可能性があると知り、中年とは出会う危機の深浅や時期に相違はあれど、誰しもが直面しなければならない、避けることのできない、「一皮、二皮剥ける時期」だと分かり、安心半分、同世代への連帯感半分を感じるといったところ。

僕自身、ここに書かれていることで思い当たることが沢山ある。しかし、根がのんびり屋のせいか、危機を危機と感じずに既にやり過ごしていたり、自分の欠点、不得意分野の為に生じていると思われたゴツゴツ感が、実は誰にとっても出会うべき危機だったりすることに気付き、「ああ、自分も危機に直面しながらもとにかく生きていて、偉いもんだ」と感心したりする。

中年というと夏の盛りの末期で少し秋の兆しを感じる時期のイメージもあるし、傍若無人で脂ぎった、汚い存在のイメージもあるが、本書を読めば第二の誕生を控えたナイーブな時期を生きる感じやすい大人達のイメージも出てくる。中年必読の書である。
5.0 中年の暗い指数
「中年クライシス」でも夏目漱石の「道草」や山田太一の「異人たちとの夏」など、へたな批評家の文を読むより遥かに面白く興味深い。しかも、けっこううなづくことも多い。

「道草」はぼくも以前読んでいて、題材の異様さと話の不思議さに何故か・・ひどく疲労を覚えたのだが、その謎の解答の一つを気づかされた経験もある。

穏やかそうに暮らしている日々に突然ある日現われた、とっくに忘れていたはずの逢いたくない親戚の男の度々の訪問・・「いやだったら、帰ってもらえばよい」という奥さんの言葉を、そのままなぜか受け入れられない主人公の心と、その小説の中にある不思議な俯瞰的な視線・・。

講演の記録の中でも、そういう中年期にあらわれる心の危機を、普遍的に多くの人に起きる人生後半への心のステップとしての、産みの苦しみのようなものとして紹介されたり、作者、漱石の精神の強靱さをも指摘している。

また「異人たちとの夏」は、さらに現代の中年を迎えた人が、今までの多忙の中で内部との対話を忘れている間にポッカリと空いた、心の孤独な空洞に現われる・・、彼の死につつあるかのような「情動」を回復させる要素としての異界人との接触を、彼の必然として訪れた・・危機でもあり、心の隅に追いやっていた半面、その情動との出会い、心の全体性へ治癒・再生を促される物語として読み取るあたりは、講演の中でも聞き入ってしまう人が多いのではないだろうか。
4.0 中年という季節
 勿論中年という捉え方には、個人的な差が大きいものであろうと思う。個別に中年という状態を分析できるほど、その多様性は一般化できないものかもしれない。しかしながらそんなことをいっていてはいつまでたっても中年というアウトラインはつかむことができかねるので、中年を取り上げた小説の物語を追い、その登場人物から中年というものを考えてみる試みが本書である。そういう試みが中年を考えるよすがとなるとともに、非常に詳しい書評になっているのがこの本の大きな特徴だろう。本というものはこのように読むこともできるという、僕としては面白い発見にもなった。鑑みて、自分の中年という状態についてもなんとなく光が見えてくるような思いもして、気分的にずいぶん救われることになった。精神病とまではいかないまでも、中年の悲しさを捉えることで、自分自身の中年に対する処方箋になっているのは流石であると思う。

 この本がいっているように人間にも季節の四季のようなことが起こりうる。いつまでも春でいることが必ずしも幸せというものではない。冬の厳しさが春の喜びも深めるように、あるがままにその季節を体験するという姿勢こそ、本当に深みのある生き方につながるということでは無いだろうか。

4.0 中年の危機をチャンスへ
 私は昨年4月の配置換えを機に鬱病を患い、9月から休職中である。もう、職場復帰は目前であるが衰えた体力回復のため書店巡りをした。書店で、本書を見つけ、読みやすそうなので買った。有名な日本の小説12編を素材に中年の危機のありようとその克服法が優しい筆致で描かれた好エッセイである。久しぶりに喫茶店へ入り、フルーツ・パフェを食べながら3時間ちょっとで一気に読み終えた。文学作品を病跡学的に扱うわけではなく、ましてや本格的な論文でもない。12編の作品の分析は心理療法家ならではという冴えわたった感はしないが著者の視点が優しいのである。この優しさが本書の魅力である。肩肘張る読書ではなく、リラックスした読書体験をさせてくれた本書は全体を通して私から重荷を降ろしてくれた。エレンベルガーはフロイトやユングが中年期に重い病的体験をしていることに注目し、「創造の病」という考えを提唱したそうである。読後、私の鬱体験が「創造」に向かう気がしてきた。不思議な魅力をたたえた河合隼雄の一冊である。
4.0 ここに面白い本がある。わかりやすくそして神妙な本があるのだ。
河合さんの本はどれも読みやすく面白い。それは現場を大事にする臨床心理学者だからなのだろう。要するに相手の顔を見ながら「わかる話」を延々と積み上げてきた経験ならではの語り口がすばらしいのだ。日本の財産だと思う。
箱庭療法や、対談など、彼の経験を生かした彼ならではのジャンルはみな面白い。そして、これ。これである。

「中年クライシス」は有名な小説を選び、それをひも解きながら、彼の世界を語る彼ならではのジャンルだと思う。グリコアーモンドキャラメル(古いか)も真っ青の一冊で何度でもおいしい本なのだ。

題材となった小説を読んでいても読んでいなくても面白い。読んでいなければ読んでみようとも思うし、読んでいれば彼の提供するまた新しい視点に思わずほくそえんでしまうことに喜んでしまうだろう。

選んだ小説はみな一流の小説だ。そして彼の論評もそれに伍して冴え渡っているのだ。遠慮していないからなのだろう。読者は心地よいリズムとテンションに裏打ちされた舞台で、絶妙のリフとフレーズが織り成す極上のインプロビゼーションに酔いしれてしまうことになるのだ。

高名な小説を仮に立て、ただ思うまま吹いているだけなかもしれない。もしくは一流の小説が彼をして描き得ない何かを語らしめているのかもしれない。それはそれ、場をみつけたあたらしい真実がすこし姿を出してみたがっているのかもしれない。

つまりこういうことだ。

ここに読んで面白い本がある。わかりやすくそして神妙な本があるのだ。

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