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希望の政治学―テロルか偽善か (角川叢書 38)

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希望の政治学―テロルか偽善か (角川叢書 38)の商品レビュー

5.0 理論と現実をめぐる政治学
善と悪、加害者と被害者、抑圧者と被抑圧者、搾取するものと搾取されるもの。これらの境界線が不分明になってしまった世界では、たとえばテロリストですら、それを糾弾する自由主義陣営の政治的、経済的指導者となんらかの繋がりがあったりする。

安易な勧善懲悪論では割り切ることのできない世界を素描した『序論』では、貧困がテロを生む温床になっている等の、単純な因果関係が論じられているわけではない。貧困はテロリズムの原因ではなく、むしろその結果だと本書では主張されている。しかし、その場合の「テロリズム」とは何か。著者によれば、それは「テロリストなきテロリズム」、すなわち、世界資本の構造、もしくはそのあり方そのものであるということになる。

現代世界のテロル/恐怖を、たとえば宗教的な過激派による爆弾や銃弾によってもたらされるものとしてのみ限定していたのでは、世界中で繰り返される悲惨な出来事の重要な部分とそのカラクリを正確に捉えることができないのではないかと。このあたりは、著者自身も認めるように、議論の分かれるところだろうが、決して無視することのできない重要な論点であることには違いない。

そうした世界資本のダイナミズムが、いま、いったいどのような政治的イデオロギーのもとで展開されているのかといえば、それは「民主主義」である。そこで著者は「民主主義」
を中心に、現在でも流通している政治的言語についての考察を、思想史を縦軸に、構造論的な分析を横軸に展開しようとする。そして最終的には、少なくとも「民主主義」にはまだまだ用済みの烙印を押してしまうわけにはゆかないと主張されている。おそらく、非常に安直な「民主主義批判」がなされがちな昨今、著者はそれをけん制しているように思われる。

本書は、きわめて今日的な話題を正統派的な政治学と現代思想のいくつかの理論を基軸に読み解こうとするが、そこで展開されている議論は、政治学や哲学の用語に不慣れな読者にも(一部を除き)比較的分かり易いものとなっている。政治学の入門書的な要素もあるのはとてもありがたい。とりわけ、「政治」概念の再構築を試みた丸山論は素晴しい。また、最終章も、序論での話題の要点が理論的に整理されていて読み応えがある。

気になったのは、読みやすい章と難解な章との差が結構あること。章によっては、読破するのにちょっと忍耐を要する。最後まで徹底的に図式的に語ってくれた方が、読者にとってはありがたいようにも思えた。

いずれにしても、一般読者を飽きさせない政治学の学術書として貴重な作品だろう。
3.0 政治的なるものへの問い
政治とは何かを、その基になっている思想・イデオロギーから問い直すことで、原初の視点から再構築しようとする試みがなされている。国家が敵を必要とする理由、主権が意味するもの、無内容な政治的言語(⇔普遍性)、擬制(フィクション)の役割などの議論が、認識論や言語学の観点から分析されている。

筆者は、政治的言語自体は無内容であり、民主主義が意味するものも、時代を経ることで変化してきたと論じる。概念の空虚さゆえにその意味内容をめぐって闘争が発生し、新たな秩序や安定性を生み出すチャンスになる。世界で起きている悲惨な現実を解決するためには、民主主義とともに謳歌される新自由主義の負の側面に着目しなければならない。

問題を既存の枠組み内で解決しようとするのではなく、枠組みそのものを検討の対象にしようとする意欲的な作品であり、政治学の古典と現在をつないでくれる。難をあげるとするならば、問題設定の仕方がやや単純である。序論では世界の抱える問題としてテロリズムが取り上げられており、この問題をめぐっては善悪二元論のような単純な二分化はできない、なぜなら先進諸国の富は多くの後進国の犠牲によって成り立っているという不公平性が世界に蔓延しており、これは白色テロ(国家テロ)と言えるのではないかと、筆者は主張する。
しかし、既に多くの研究でも指摘されているように、貧困状態とテロリズムの発生に因果関係があることは認められていない。ミドルクラス・テロリストという言葉があるように、テロは中産階級の立場の人間によって起こされることがしばしばである。アル・カーイダやオウム真理教のメンバーは、果たして抑圧を受けてきた者として定義できるだろうか?筆者はテロの発生要因として現実の差別的待遇による怨嗟という外部的な条件を「とても現実味のあること」(p.19)だと強調するが、それこそ現実との不一致があるだろう。経済的不平等を解消するだけでは、テロを解決できない。

本書の内容では、この問題意識は本質的な議論と関わってこない。そのため、政治的概念を洗いなおすという本書の意義が失われることはない。だが、問題設定での誤りは、その後の問題分析と解決策を無意味化する可能性が大いにあるだろう。

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