バランスの欠けたSFC礼賛作品
慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)一期生であり、歌人の著者が、SFCの理念やカリキュラムを紹介した作品。当時の大学パンフレットや教授陣の語った言葉などから、SFCがどのような理想像を描いて設立されたのかを紹介している。実質的には大学のパンフレットと大差はないように感じる。著者がSFCの利害関係者であり、提示している資料も大学側のものばかりで、外部からの評価などをあまり取り上げていない。そのために、本書は非常にバランスの欠けたものとなっている。SFCも設立から10年以上たち、理念だけでなく、その成果が問われる時期に入っているにも関わらず、その評価の記述が十分でなく、理念ばかりに本書が偏重しているのは時代錯誤なのではないだろうか。例えば英語に極端に偏重した入試方式に対する批判などを取り上げるべきだと感じた。
「何人の大臣がここから生まれるより、いくつの笑顔をこの星につくれたかが重要」「偏差値より世界の総幸福量に貢献するほうが素晴らしい」と語っているように、著者自体が極端な理想主義者の傾向が感じられ、冷静な評価は望むべくもない。著者の問題というよりは、このような内容を予見できずに、なおかつ、そのまま本書を発行した出版社側の姿勢に大いなる疑問を感じた。
関係者の自己満足
SFCとは慶応大学の総合政策学部のある湘南藤沢キャンパスの略称である。
関係者以外にはわからないこの略称が、本の題名になっていることが象徴するように、この本はSFCの関係者のための本である。 この本に示される総合政策学が目指そうとするもの、そしてSFCの教育は、たしかにすばらしいのかもしれない。しかし、そのすばらしさは、今の大学教育一般と比較すらされることはない。SFCの教育のユニークさを語るためには、現在の大学の教育への批判に立脚し、その比較において、SFCを語る文脈が必要な筈である。それが、この本は、「単なる自慢」に終始する。この本を読んでもSFCは何に挑戦しているのか、さっぱりわからないのである。
この本は、SFCの卒業生、受験生とその親には、まことに良い本なのかもしれない。他の人々にはどうだろうか?