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前巷説百物語 (怪BOOKS)

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前巷説百物語 (怪BOOKS)の商品レビュー

4.0 "非人情"の世界を思わせる京極版「草枕」
「巷説百物語」シリーズ中の仕掛け人、小股潜りの又市の若き日々を描いた作品。

冒頭の「寝肥」は又市が仕掛け人稼業("損料屋"と言う概念が面白い)に入るキッカケとなった事件。「どすこい」を思わせる軽いノリと又市が他人の仕掛けの観察者となる趣向で楽しませてくれるが、又市の漆黒の闇の過去を期待していた読者には肩透かしのスタート。「周防大蟇」は又市が仕掛け人としての手腕を初めて見せた作品。仲間の元公儀鳥見役の山崎がイイ味を出している。武家の"しきたり"を初めとする社会の縛りに対する怒りを通り越した諦観の念が渋い。この二作を読むと作者が「草枕」の人生観・文体を意識している事が窺える。「二口女」は継子ものの体裁を借りた"逢魔が刻"もの。「血の繋がりよりも縁」と言う又市の言葉がヤケに胸に染みる。全編を通じ、堂庵のトボケた学者ぶりがオカシイし重宝だ。「かみなり」では損料屋のピンチに準レギュラーの"御燈の小右衛門"が救いの手を差し出す。又市と小右衛門の出逢いである。「山地乳」は江戸の裏社会で化け物と呼ばれる祗右衛門との死闘と又市の出自を絡ませて描いて、本作で一番の構成力を誇る。「旧鼠」は冒頭で後の又市のお札売りと「御行奉為--」の謂れが出て来て可笑しいが、本筋は既刊のシリーズでも登場する不死身の祗右衛門との闘いである。おぎんも登場させるサービスぶりだが、宿縁の深さと実体のないモノを退治する難しさを痛感した又市は、遂に闇の世界に入る事を決心する。「御行奉為--」。

これまでのシリーズの特徴であった妖異性・異界性は薄れ、仕掛けも見劣りがする。代りに、"青臭い"と呼ばれながらも人情と非道の狭間で漂う又市の姿が印象的。漱石流"非人情"の世界を思わせる京極版「草枕」。
4.0 時代の雰囲気
作者が時代の雰囲気を醸し出すことを疎かにしているとは思えない。
しかし巷説シリーズを読んでいていつも気になるのが、「又市殿」「お甲殿」
などという武士(浪人も含め)の言葉遣い。また「○○藩士・何某と申す」
のような江戸時代にはあまり使用されていない「藩」の多用や陪臣の妻を「奥方」
と呼ぶこと等々。もちろん江戸時代の言葉で全部を書くわけではないが、「藩士」
であれば「○○家 家来」とした方が「江戸時代らしい」のではないか。

これまでは「まぁ仕方がないんだろうな」と思っていたが、本書巻末の参考文献の
中に三田村鳶魚の名前を見つけて違和感が強まった。三田村翁が口を酸っぱくして
指摘し続けてきたことであるから。巷説シリーズも京極堂シリーズも「言葉」が
命だと思うのだが。別の作品では徳川をトクセンと読ませるなどの三田村翁風の拘りを
見せているだけに不可解。
4.0 命の重さ
それぞれの話を解決するときに
なるべく人死にが出ないように...
と、悪いとされてる人間だって、周りの人にしてみれば大事なんだと
それを言いつのっている割には、話が進んで行くにしたがって
命が軽く扱われている感があるのは何故なんだろう。
5.0 「物語」のはじまり
 「巷説百物語」シリーズの登場人物たち―なかんずく,「又一」―の過去を解き明かす物語です。

 シリーズ中での又一は,酸いも甘いも知っている苦労人というイメージですが,本作で語られる彼は,まだ威勢の良い駆け出しです。
 ‘仕かけ’も,又一が主導権を握っている場面は少ないこともあり,やや精緻さに欠けます(もちろんこれは,作品構成上の狙いでしょうが)。
 また本作では,かなり「人死に」が出てきます。これも,のちの又一の性格や仕かけのやり口を理解する上での必要な構成といえます。

 本作品は,一連のシリーズを読んでいるほうが楽しめるのは確かです。しかし,本作品を最初に読んだとしても,シリーズと矛盾しないよう,うまく構成されています。

  一連のシリーズと同一平面で評価するのは難しいですが,キャラクターの性格に深みを与えるものとして,また小説自体としても楽しめます。

 なお,「後巷説百物語」でシリーズ的に一応区切りがついていると思われるので,新作品が出るとすれば,外伝的あるいはサイドストーリー的な構成になるのでしょうか。本作で初登場しかつシリーズ中で語られていないキャラクターもいるので,是非,続きを期待したいところです。
4.0 又一かけだしの頃
 御行姿になる前の、小股くぐり時代の又一編。「とにかく命に釣り合うものなんざネェんだ」っていう又一の青臭さが意外です。妖怪仕掛けがやや単純なのも、京極堂の計算づくです。
 「続巷説…」でつづられた祇右衛門が、更に深く掘り下げて描かれます。御灯の小右衛門もまた、いきいきと現役で登場。うれしい驚きの、二倍楽しい企画。おぎんや又一の出所が知れます。
 又一の心に深い傷を残すいきさつが描かれ、ボリュームに見合った手ごたえと感動がありました。

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