村上春樹系エッセイ集/幻想的な日常を描く
精神科医の幻想的で、少し奇妙な日常を淡々と描く。文章は心に深入りしてこず、とても心地よい。現実のルールをかすかに逸脱した物語の数々は村上春樹の文章を思わせる。村上春樹ほど強引ではなく、完全な事実に則った話をしているというのが違いだろう。例えば、「ぼきり」「ぼきり」と赤青鉛筆(正式名称をVPというらしい)の両端の芯を折ることによって精神科医を脅す患者の物語などがある。「『どぎついもの』と『とりとめのないもの』、残忍さと『分かりやすい優しさ』、過剰と欠落―こうした対立するものが融合したり和解することなく共存しているのが現代社会であると…(後略)」(p.257)という見方は非常に鋭いと思う。さまざまな世界が混じらず、共存する。そして、「分かりやすい優しさ」というものの怖さを意識した。
「考えてみれば、我々はひとりひとりが孤島のようなもので、なるほど海底をたどってみればお互いに繋がり合っているかもしれないけれど、所詮は隔絶した存在でしかない。ときにはある島にしか棲息しない『奇妙な生物』が精神科いによって発見されたりする」(p.163)という指摘は面白いし、わかりやすい。僕の人間にとって抱いているイメージと重なる部分があった。
その他、美人は幻想やファンタジーに近い(p.198)など、に日常と学問の中間くらいに立ち、わかりやすく伝えてくれる。
まってました!!
文藝春秋に連載時からこつこつ読んできたのですが、一冊の本になったので待ってましたって感じです。
産婦人科医から精神科医への転向の為か作者の著作本はどれもユニークですが、この本がいちばんユニークなのではないでしょうか?個人的には「コップの割れる瞬間の恐怖」のエッセイが大好きです。味噌汁の中の死んだシジミをしみじみと眺め、その中で何が起こってしまったのかを考えてしまい、たぶん緑色に変色したであろう貝の肉を連想し、ちょっと怖がる春日武彦先生、ステキですねー