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じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書「ジュネス」)

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じぶん・この不思議な存在 (講談社現代新書「ジュネス」)の商品レビュー

4.0 答えとしての<わたし>、問いとしての<わたし>
「<わたし>とはいったい何ものなのか?」
その問いにこだわる時もあれば、目に入らない程度に遠ざけている時もあるものの、僕らは
その問いから完全に自由になることはできない。「<わたし>から自由になるわたし」はいな
いのだから。これは、哲学者鷲田清一がその問いをやわらかい言葉で解きほぐしていく、哲学
的エッセイ。いつも不思議に思うのだけれど、この人はアカデミズムのなかにいる(なんたっ
て阪大学長だ!)のに、本当に言葉がシンプルだ。かといって読んでいて気が抜けないのは、
そんな素朴なエッセイの中にひょっこりと、その問題の核となる部分に、ダイレクトに迫る問
いがなされるからだ。

近代なんて遠い空と思っていても僕らの頭はずっと近代的で、未だに同一的な自我、固有の
個性によって表現される内面への憧れに浸っている。著者が導くのは、そのような「<わたし
>から始まる<わたし>」論ではなく、「他者の他者」としての<わたし>論だ。

あいにく、この本を読んで「<わたし>がわかる」はずはない。むしろ、読んだ後には<わた
し>の謎が深まるばかりかもしれない。しかしそれは、この本の失敗作であるということでは
なく、この本と目指している地平が最初から違うのだ。この本の意義は、<わたし>を単純明
快に解いてくれるところはなく、<わたし>を問いとしていろいろな形で読者に提示してくれ
るところにこそ、見出されるべきだ。

例えるならこの本はパンではない。いわば「パン粉」のような本だ。焼き上がったパンのよう
にもうすでに完成済みの形を持った思想は指し示されない。著者の仕事は、あくまでパン粉と
いう不定形を練り上げるまでだ。それぞれが思い思いのパンを形作り、そして焼き上げるよう
に、読者それぞれがこの本から<わたし>とは何かという問いを出発するべきなのだろうと、
僕は思った。<わたし>の答えがあるとすればそれはおそらく、そのように「<わたし>とは
何か?」を人生の内で問い続けるという行為遂行的にしか、手に入らないものなのだから。
4.0 他者とともにある自分
 「わたしって何者?」っていう問いはだれもが一度は考える普遍的なもので、私自身も例にもれず気になって、本著を手にした。筆者が本著で主に主張していることは、自分自身について「私は誰か?」という問いを自分の内側に求めても自分に固有のもの、つまり答えは得られないということだと思います。私は誰にとってどういう私か、という他者との関係の中で、私というものを考えることにむしろ、答えを見いだせそうな気がする。それと同時に、私は他者にとってのそういう他者になるべきだ、支えられたり支えたりと支えあうことが重要なのです。だから、他者から他者と認めてもらえないときは、私の存在がゆらぎ、居心地が悪くなる。電車内で化粧をする女性に嫌悪感を感じるのはそういう理由からじゃないかと、わかりやすい例もあり、難解なものではなくできるだけ平易に書かれていると思います。
4.0 日常に生かせる哲学
「私はだれ?」という問いにまつわる話しです。
著者は「私はだれ?」という問いには解がないとしています。
しかし読者は日常生活の中で自身の存在について考えるとき、考える道具を手にすることができます。

●相手によって自分の評価が著しく変わり不安→自分は「他者の他者」として存在している。「自己の同一性を求める必要はない」
●心を込めて話したら伝わった→相手に「顔を差し出した」結果相手に「私にとっての他者である」ことが伝わった

哲学に触れたことのない私でしたが、多くの具体例と(秀逸な)引用のお陰で最後まで読み切ることができました。
著者の「待つということ」を手にしたときは私には難し過ぎると感じました。
しかしこの本を読んだ後は他の著作も読んでみたいと思うようになりました。
5.0 電車のなかで化粧する<思想>
名著である。哲学的な訓練を積み、なおかつ考え抜いた知性だけが能くし得る文章といえる。
一点だけ、電車内で化粧する女性についての一文は秀逸であり、考えさせられる。
それは脳の問題ではない。<他我問題>である。これを<脳の問題>とする議論こそが「問題」である。『唯脳論』や大手メーカーの研究所で高給を取るらしいチンケな脳学者の本は端から御免蒙るが、ケータイ脳やケータイ猿といった議論も非常に危険なイデオロギーを含んでいることが、本書でハッキリわかる。「電車でお化粧」はハッキリと思想・哲学問題なのだ!
もちろんこれだけでなく、他の文章も繰り返し読むに耐える逸品の数々である。小林秀雄のエッセイ『考えるヒント』といったものにいまだに魅了される御仁には、是非読ませたい。文体に対する感覚、思考することの流儀がまったく変わってしまうだろう。
5.0 存在の不思議
「こだわりやしがみつきを手放すこと」についてあれこれ思う昨今であるが、人がとかくこだわり、そして悩みの種となっている問題に、〈わたし〉とか〈じぶん〉とかいったものがあるのではなかろうか。

これほど自明に見えて、これほど突き詰めていけばいくほど曖昧模糊として掴み所のないものは、他にそうないだろう。その困難を前にして、「自分はしょせん自分でしかない」といった類の思考停止を超えたところに、著者の思索の領域はある。実に言葉にしづらいテーマであるはずなのだが、著者の繊細な筆はそうした微妙なところをうまく言葉に乗せている。

語っても語っても伝わらないという体験は、誰にでもあると思う。とりわけ、「自己と他者」といったテーマにくくられるようなことについてそうした体験を持つ人は、この本を大いに参考とすることができるのではないか。

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