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幸福論 ―精神科医の見た心のバランス (講談社現代新書)

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幸福論 ―精神科医の見た心のバランス (講談社現代新書)の商品レビュー

3.0 静かで定型的な幸福
この本を読んで面白かったかどうかは微妙である。幸福について著者は華やかで騒々しい幸福ではなく、いわば静かで定型的な幸福について述べている。例えばある種異変として起きた幸福はそれはやがて不幸へ転落する前段階でしかなくなるとか、人は何か確固としたものを心に持っていないと、定型としての武器を持つことができず、たがの外れた夢想に逃げ込むしかなるなるというのは何か説得力がある。また死を間近に控えた不幸な女性に対して内輪での演出された幸福に嫌気がさすのもよくわかる。冒頭に出てくる幸福の1ダースは黒ビールと鰻重の話が幸福感にリアリティがある。読んで特に役に立つ本ではない。しかし静かに自分の日常を考えさせてくれる本である。
5.0 幸福?
それを「幸福」と表現するかどうかはともかく、何とも言い難い奇妙で豊かな感覚が沢山拾い集められていて楽しい。楽しいんだからやっぱり「幸福」って言っていいのかな。
ただこのタイトルでは読むべき人との出会いを狭めるのでは?
4.0 ひねくれ者による幸福論
この春日武彦という人、別の本で内田樹と対談しているのだが、そのとき読んでいて「この人医者の癖にひねくれ者だな〜」と思った。宮崎駿が嫌い(これは賛否両論あるだろうが)なのはさておき、臨床の現場でそんな投げやりなことを患者に言っていいのかと、笑っちゃいそうになるほど変わっている。この本は学術的にどうこうというよりも、ひねくれ者が幸福という言葉と出会ったらどのような化学変化が起きるのかということを楽しむ本だと思う。

人間は幸せという状態を何か手にすることが出来るものに物象化したいという欲望にとらわれる生き物である。私は安易に幸せに「なりたい」や幸せが「欲しい」という趣旨の発言をする人を、人間として下に見ていて、幸いなことにそのような人間は周りにいない。そんなことを言う奴ほど幸せについて、真剣に考えたことがないのではないか。

この点について、筆者も同意してくれている。
彼は冒頭で幸福になる方法なんて教えようがない、とまずはっきり断言する。加えて、つつましく生きること、身の丈にあった生活をしていれば幸せになることができる、といった坊さんの説法みたいな論にも違和感を表明し、「論外」といってばっさり切り捨てる。幸福なんて人それぞれであり、教えようがない。その出発点に立った筆者が取る方法、それは「幸福の断片」の記述である。
第1章「幸福の1ダース」で筆者は、彼自身が体験した幸せを感じた瞬間12個を一挙に公開する。こんな風に書くと、いかにも陳腐なエッセイになっていやしないかと思われるかもしれないが、彼自身がそのエピソードをなぜ幸福に思ったか深く内省しているため、けっして飽きさせない。

この「幸福の断片」で筆者が伝えたがっているのは、「幸福のニュアンス」だと思う。幸福のあり方は違っても、それからたちこめる「風味」のようなものは案外みな共感できるんじゃないか?そのことを春日はこのとりとめもないエピソードを通して伝えようとしている。
4.0 日本人の幸福
すべての人ではないと思うのですが、日本人の考えていた、あるいは、親に知らぬ間に、漠然と吹き込まれた『幸福とは、こういうもの』という定義‥それは、勉強しなさいに始まって、なるべく偏差値と知名度の高い大学を出て、なるべく知名度の高い会社に入って、三十も過ぎて独身は、みっともないから、とりあえず適当に結婚して、さらに、子供も一人くらいはつくらないと、夫婦として世間体が悪いからつくって‥のようなものではなかったでしょうか? そういう生き方に何の疑問も持たずに、中年くらいまできたけれど、ふと、気がつくと、自分に自信が持てず、やたら他人の動向が気になり、反射的に見栄や虚勢を張ってしまい、孤独感と不安感に苛まれる‥さらにそれをも、ごまかして生きる‥そういう人が、今、とても多い気がします。 そういう人の子供が荒れ、犯罪も増え、世の中がすさんでいるのではないでしょうか? 幸福とは何か? 幸福がどんなものなのか、子供時代に間違った幸福の定義を、親から植え付けられてしまっていて、無意識にもがいている人や、子供の教育に携わっている人に、著者の本は有益だと思います。
1.0 斜にかまえるのがカッコいいか?
『幸福論』では、梅崎春生の小説「猫の話」が紹介されている。「カロ」という名前までつけ愛着のあった野良猫が自動車にひかれ、死骸はそのまま道の上で何台もの車に踏まれて次第に紙のようにペラペラになって散ってゆく。若者はその過程を二階の部屋の窓からじっと眺めていた。「カロ」の死骸が数百片に分断されタイヤについて東京中の空間に撒きちらされる。「カロ」は消失したのではない。若者のまわりに「遍在」している。春日はこうしたイメージが救い(=幸福)をもたらすと言う。(17頁)
 同じような小説は安部公房にもあった。猫が道にはりついて紙のようにペチャンコになってゆく状態は私たちもよく見かけるが、それはやはり強烈なイメージなので小説にしてみたいのだろう。生物が二次元のようになってしまう奇妙さは恐ろしい。トムとジェリーのマンガならペチャンコになってもまた生き返るのだが。
 この引用された小説にあるのはそんな風流でも諧謔のある状態でもない。愛着のある猫が目の前で車に跳ねられたとき、普通なら急いでオモテに飛び出して重ねてひかれないように助けるであろう。まだ生きているかもしれないし、死んでいたとしても穴を掘って埋めるとかするはずだ。だがこの若者はそういうことは全くしない。「カロ」の最後の断片が運び去られたとき若者は泣くのだが結局身体を動かそうとはしない。病気でも障害者でもないのに。愛する存在が消えてゆく過程を平然と観察できる心理状態はどこか静かに狂っている。救われるというほど傷ついているようにも見えない。だが春日はそういうことはどうでもよいらしい。
 愛する存在が遍在しているイメージといえば、『世界の中心で、愛をさけぶ』でもアキの遺骨を撒くというラストシーンはそういう印象があった。どうせならセカチューを引用すれば?

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