その後の高みに至るための通過点
短篇集「TVピープル」と「夜のくもざる」所収の作品を中心に、日本初発表の「青が消える(Losing Blue)」などを所収。他の全集収録作品と同様、全篇加筆訂正されたうえに、巻末に著者による詳細な解題が付いています。「TVピープル」は、位置的に重要な意味を持つ、と解題で村上氏は述べていますが、たしかに氏が得意とする一人称(僕)でなく、三人称で書かれた作品や実験的な要素が含まれる作品があるなど、それまでの氏のスタイルとは違った雰囲気を感じます。主人公自身(僕)のことよりも、他者との関係性にすこしずつ重心が移ってきている、また不快なものの描写などを積極的に行なっているように思われます。その後の「ねじまき鳥クロニクル」や「海辺のカフカ」の高みに至るための重要な通過点だったのでしょう。その意味で興味深い作品群です。所収の作品では、個人的には「我らの時代のフォークロア――高度資本主義前史」が一番好きです。
「夜のくもざる」は、もともと広告のために書かれた極短篇小説集で、村上氏はそうしたフィクションを「ひょひょいのひょい」と呼んでいる、と解題に書いていましたが、まあ何か深遠なものを得る、というよりは文章を楽しむ、という感じの作品群で、リラックスして読めます。ファンであれば、いつかは買ってしまうアイテムと言えそうです。