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◆「作者―犯人―死体」という系列に生じるロジカル・タイプの侵犯 (1)「犯人」が「死体」のレベルに下降する場合 ◇〈顔のない死体〉トリック 最初に被害者だと思われていた人物が真犯人であると判明する技法。 →首を切る、顔をつぶす等の偽装手段によって、死体の アイデンティティを犯人自身のそれとすり替えるため。 →「犯人―死体」という主客の関係が、 ロジカル・タイプの侵犯によって入れ替わってしまう。 (2)「作者」が「犯人」のレベルに下降する場合 ◇小説の語り手そのものが犯人であるケース ◇「犯人」が「探偵」以上の知的怪物で、ミステリが要請する 「問題編―解決編」の二重構造を多重化するケース。 具体的には、「犯人」が意図的に虚偽の手がかりを配置し、 名探偵の推理を名指しで操ることによって、作品空間が 「(問題編―偽の解決編)―真の解決編」という形へと 自己増殖していくことを指す。 上記は、いわゆる「ゲーデル問題」の前提となる箇所。 笠井潔『探偵小説論序説』の考察も下敷きに されているので、併読を推奨いたします。
半分以上は初出で読んだからだが表題作の「複雑な殺人芸術」が初読だったこともあり、白眉であった。 ここではR・マクドナルドの書いた「ウィチャリー家の女」を法月は江藤淳バリの文体論を駆使して、巨匠の駄作をまごうことなき傑作に転嫁させる。 これはとうの昔に為されるべき仕事できちんとテクストを読み込めば誰にでも可能な作業である。 その怠慢を推理小説文壇は妄信なのに定説としてきたのだ。 ゲーデル問題やら聖書、固有名の問題など柄谷行人の受け売りが目立つが実は根底にキチンとテクストを読解する作業がある。 オタクと右翼が<文学は終った>と云えば商売になるプロバーな文芸評論家たちは、実は、法月ほどの仕事もしていない。 その法月、文庫解説では批評家ぶらないで、懇切丁寧に、日本ではよく知られていない作家の経歴や他の作品、自国での評価などファンが知りたいことをたっぷり教えてくれる。 ネットやコミケでプロ・アマの差異が無くなった時代に、オーソドックスな仕事をする著者の約15年の集大成。