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商品の情報
わたくし率イン歯ー、または世界の商品レビュー 新しい日本文学の曙光
歯科助手として働く語り手が、わたしとは奥歯であるという信念(というほどでもないが)のもと、青木なる恋人にせっせと恋文を書いたり、未来の子供に「お母さんは」と言って手紙を書いたりしながら、大阪弁の地の文で怒涛の展開を見せるという小説。言葉のスピード感は、芥川賞選評で山田詠美が言っていたように、面白いものがあり、個人的にはネタばれしている『アサッテの人』よりも小説として面白く読んだ。とくに、喧嘩したら、奥歯(つまり「わたくし」)を見せ合って、それで仲直りするという約束というか物語を作る、というモチーフをもっと掘り下げていければ面白かったように思う。 お口の中と世界の結婚
そこに存在する人の、他の誰とも代わり得ない「たったひとつのそこにある視力」。作中、この「視力」は「痛み」と並んで、私はどこまでも私、という自同律の象徴。人の顔は毎日露出しているから大事な所が薄れるのかも、という語り手の疑惑は、奥歯への執着に導かれる。普段は眼差しから隠されているが、口を開け、鏡に映して自分で見るなり、他人に見せるなり出来る、奥歯。彼女が歯科の前に化粧品売り場で働いていた話は、女性性という角度から、他者の「視力」と存在認知の関係を匂わせるし、カタストロフ的場面で彼女が、自らは無頓着でいた容姿を「ブス」と批難される必然性にも繋がる。 著者自身へのレクイエム
わたくし(自分の本質)が奥歯にあると決め込んだ精神錯乱気味の歯科助手の物語で、個々の読者にとって様々な多様性を持って働きかけてくる、とても読み応えのある小説だと思います。 不思議な感覚に浸れます
なんとも不思議な読後感だった。一息ついてストーリーを追い直してみる。統合失調症患者の妄想のような一見、支離滅裂な話が続く。自分の奥歯に自我があると「決めた」女が、まだ宿してもいない自分の子どもと中学時代に「自分が知りたい秘密」を教えてくれた男の子へ向けて手紙を書く。その内容は正しく妄想そのもの。しかし、この本のテーマである、わたし、自己意識、自我についての考えは実に深い。哲学の独我論にも通じる。アルバイト先の歯医者でも妄想が続くが、これは自らの影を見ていると思える。そこへ実物のその男が患者としてやってくる。女は男をアパートへ訪ね、怒涛のわたくし論をブっぱなし「奥歯(男の自我)ちょうだい」とたたみかける。それに対峙する男の部屋から出てきた女が、読んでいて笑えるまでに痛快な現実を突きつける。これがクライマックス。後半の展開も興味深い。奥歯を麻酔なしで抜きながら頭に浮かぶのは過去に受けた陰湿ないじめの光景か。最後の3ページには、すべての始まりを予感させるエピソードがこの部分だけは全く普通の文体で書かれている。このリズムはハマる。人物の心を生々しく描写する著者の力はすごい。 想像力を駆り立てて読めました
理解しようと思って読むと、読み進めるのが困難かもしれませんが、細かいことを気にせずに読み流していくと、リズムがあって読みやすく、インディーズ映画のようなポップな映像を思い浮かべることができました。不自然な句読点や無意味そうな表現も、その映像に音響効果や特殊効果をもたらしました。映画にするとかっこよさそうな描写が多くあり、楽しめました。下手に詳しく書かれていない分、想像力を駆り立てて読めました。一方で、自分を見失い、生きる意味を探し求める主人公は、深く描かれており、共感するところも多くありました。帯にあった「ほいでもって泣くで」のコピーは、かなり正しいと思われます。 本の最新売り上げランキング - トップ10
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