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ブッダ論理学五つの難問 (講談社選書メチエ)

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ブッダ論理学五つの難問 (講談社選書メチエ)の商品レビュー

5.0 西洋論理のはざまで
実に考え抜かれた本だった。

西洋論理学は時間を対象にすることができない。「クジラならば哺乳類である」の対偶「哺乳類でなければクジラでない」は正しいが、「家事をしなければ妻がうるさい」の対偶「妻がうるさくなければ家事をする」はそのまま取ると変だ(余談だが私の場合前者は偽、後者が真)。それは2つの項目に時間の差があるからである。

ブッダの説く因果の公式「Aが生ずるからBが生ずる」「Aが滅するからBが滅する」がこの穴を埋めるという。そこには時間差が埋め込まれている。「家事をしないから妻がうるさい」「家事をすれば妻はうるさくない」これならOKだ。

なおかつ、原因がないのに結果があるということはないから、真理表を作ればAが偽でBが真「家事をするのに妻がうるさい」のときだけこの公式は偽になり(家事をしないことと妻がうるさいことに因果関係があればの話だが)、命題論理学の真理表になかったパターンが生まれる。

ここからブッダは西洋論理学でも扱うことのできなかった関係までも知る一切知者であることが導き出されている。

さらに、「自己を愛する者は他人を害してはならない」という黄金律から大量破壊兵器の殺戮をやめさせようとして大量破壊兵器で殺戮したアメリカ・イギリスの愚を批判し、仏教の論争の的である無我論(自己はない)と非我論(Xは自己ではない)にまで足を伸ばす。

ブッダの説く十二因縁(苦しみの原因を次々とたどっていき、最後に無知に行き着く教え)を「存在論敵認識論体系」というのはまだ筆者にも迷いがあるのかもしれないが、そこは一番難しいのだろう。存在論は実在論につながりやすく、認識論は錯覚のそしりを免れない。

『アングッタラ・ニカーヤ』に説かれる討論の項目から、筆者は定言的三段論法、仮言三段論法、選言三段論法に対応させているのが面白い。でもこれをレトリックの観点から考えてみる視点も面白いのではないかと思った。

原始仏典がどことなく冗長で退屈なものに思える方にお勧め。
1.0 論理学の理解は中学生以下
最初の2章を読んだだけで著者の「現代論理学」の理解度は極めて低いことがわかる。論理学で時間が扱えない、真理表に穴がある、などの初歩的な思い違いから全ての議論を導いている。A∧Bと、日本語の「AそしてB」とはイコールでない(そのために普通は「AかつB」として、この中に元々時間の含意がないことを示すのだが)ことを理解しようとせず、それだから時間の概念が論理学で扱えない、とくる。真理表で順にTTFTの真理値を示す命題がQ→P、すなわちPならばQの逆であること位は、中学生の数学程度ですくに理解しうることである。それを「現代論理学ではこれにあたる接続詞がない」というのは噴飯ものでしかない。仏教論理を専門とする著者が、今やあたりまえになっている記号論議学を生齧りして、命題関数だとか真理値だとかいうものを生半可に弄んでいるだけの話で、内容はもとより空疎である。仏教徒である私だが、このような著者によるブッダの思索の紹介というのは頂けたものではない。あとがきに、龍樹がうるさく「書け」と言った、という件があるが、正直、著者の精神状態を疑わざるを得ない。龍樹もいい迷惑だ。
仏教書としても論理学の書としても読むに値しないが、論理展開の誤謬の例としては典型的で、おもしろい。
2.0 筆者の「想い」は伝わってくるが・・・
確かに論理的には、よく詰められていて刺激的な内容だとは思う。
しかし、その筆致からは、かなり「気負いすぎ」という印象を受け、
ダライ・ラマなどが西洋の学識者と行った対談集などに比べると、
論を展開するにあたり、「自画自賛」の感をぬぐえない。
筆者が意識している龍樹とは、またひとつ違った意味での
陥穽にはまっていると言えるかもしれない。
宗教色があまり強くない仏教に触れたい人には、よい入門書だろう。
5.0 『アングッタラ・ニカーヤ』 3.67 の発見は意義深い!
本書を最初に読んだ時には良く分からなかった。そこで一念発起して、論理学を2年かけて勉強し直した。結果として、本や仏教経典の読解能力が高まったように思う。そして久しぶりに本書を再読すると、気になる箇所があった。

一つは、時間を含む論理に関して述べる著者の主張である。ブッダの教説を扱う場合には「因→果」と「因縁→果報」とは論理に差をもたらすので、典型的な具体例をもっと検討しなければ説得力は生まれないように思う。
もう一つは、p.90に引用した『アングッタラ・ニカーアヤ 3.67.6』の文章「ただ一つの法を直観する人であるならば、正しい解脱に触れる」の解釈である。著者は「論理学を理解したものは解脱できる」と断定するが、引用された文章に続いて「執着を離れ心の解脱がある」という文章がある。ブッダが“心の解脱”と限定しているのは、身体からの解脱、感情からの解脱、心からの解脱までは論理で到達できるが、最後の法(ダルマ)からの解脱については論理では到達できないことを示していると理解すべきであろう。

ブッダは、在家修行のままでシュダオン(預流)、シダゴン(一来)、アナゴン(不還)まで到達できると述べている。そして、阿羅漢に到達すると在家に留まることができなくなって出家すると述べている。著者が発見した経典によって、論理を究めればアナゴンまでは到達できることが分かった事は意義深いことであり、不備を補った本書の改訂版が出版されることを期待する。
5.0 ゴータマ・ブッダはまさに「一切を知る者」だった!
ブッダは菩提樹下の成道ののち、自らを「一切を知る者(一切智者)」であると宣言しました。しかし、その所以については、これまでほとんど研究されてきませんでした。

インド論理学の研究者である著者にしても、最初っから「ブッダはなぜ一切智者と自称したのか?」とゆーことに関心を持っていたわけではありません。著者がずーっとひっかかっていたのは、自分の専門するインド論理学の学派と因縁深い、龍樹(ナーガルジュナ)の『方便心論』とゆー論書でした。

わずかに漢訳のみが残され、これまでほとんど省みられてこなかった同書の読解に没頭するうち、著者は『方便心論』にブッダその人の教えから注意深く抽出された純粋な「ブッダ論理学」が織り込まれていることに気づいた。そして現代論理学・現代分析哲学の到達点と照らし合わせたとき、ブッダ論理学が恐ろしい高みにあることに気づかされ、驚愕したのです。

論理学の知識がない人は最初はちょっとだけピンと来ないかもしれないけど、でも腹のすわった文体は読者をどんどん傾聴の構えに導いていくでしょう。序論から巻末まで気が抜けません。お釈迦さまの教えがこれほどまでに崇高な論理=倫理に貫かれていたとは…。仏教徒も、そうでない人も深い感動を覚えることでしょう。

詳しくは本書に譲りますが、著者は「(初期仏典に)ブッダのことばは完全に保存されている」ことを、ブッダ論理学の根幹をなす経典の形式・文体の分析を通して明らかにしています。経典の成立順序や古層・新層をめぐる不毛な応酬を土俵ごとひっくり返しかねない目の覚めるような指摘です。本文は200ページ足らずですが、その衝撃度は恐ろしいほど。

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