火村助教授のエピソードに、ぐっときました。
有栖川有栖さんのミステリのなかでも、やわらかな肌触りを感じる作品が好きです。
国名シリーズの五冊目にあたる本作品集では、おしまいのエピソード風のショート・ストーリー、「猫と雨と助教授と」のあたたかな温もり、そのしっとりとした味わいがいいなと思いました。臨床犯罪学者の火村英生助教授の猫好きぶりが、親友の有栖川有栖の目を通して描かれています。話の中にそぼ降る雨音のやわらかさと、助教授の猫かわいがりぶりを見守る有栖の眼差しの優しさに、ぐっときました。 ミステリ作品として一番の読みごたえを感じたのは、「赤い帽子」かな。この作品でも雨が降っていますが、それは土砂降りの雨。叩きつけるように降る雨音と、犯人の黒い殺意がオーバーラップするような、そんな味わいを感じました。
この作品ではまた、ラスト一行がピカリと光っていますね。話の幕の引き方が巧いな、秀逸だなと、そこが印象に残ります。
表題作の「ペルシャ猫の謎」。推理小説作家の有栖川有栖が、今まさに自分の本が売れようかという決定的瞬間に立ち合う場面が出てきます。そばで立ち読みするふりをしながら、「買え。買いなさい」と必死に念を送る作家のどきどきする気持ち、それがひしひしと伝わってきて、くすりとさせられました。これに似た体験をされたことがあるんだろうなあ、と思って。
それから文庫版の本書のあとがきを読んで、ひとつ、作家の遊びが仕掛けられていたことを知りました。さあ、分かるかな。えっ、私? それがちっとも気がつかなくて、さっきあわてて、ぱらぱらと読み返していたところです。