名探偵の幼少期
栗本さんは、物語の構築にとても自覚的な人。この作品は、さすがの技巧で読みやすく感情移入もしやすいですが、正直云ってよくある猟奇殺人モノとそれほど一線を画すオリジナリティはありません。しかし、高度成長期を過ぎた70年代後半に登場し、戦後を代表する日本の名探偵伊集院大介シリーズという広大な世界観のワンピースとしてとらえると、たまらない作品です。
まだ彼が、才能の片鱗はあっても、世に出ていないで、自分の力が世界に通じるのか、世界が自分を受け入れてくれるかどうかの不安と焦燥感を感じていた青春時代を描いています。素晴らしい偉人の「動機」を描くことは、よほどうまく描かないと、世界観自身を陳腐なものにしてしまいます。そういう意味では、栗本さんは「世界に登場する」瞬間の若者を描くのがとても巧みだと思います。似たシーンでは、グインサーガのナリスが、クリスタル大公として初のお披露目を描いたシーンを思い出します。彼女はこういうシーンが好きなんでしょうね。『絃の聖域』『天狼星シリーズ』などの、それだけ読んでも完結し凝縮した作品「ではなく」、あくまで伊集院大介シリーズという広大な世界観の補強的な作品と思って読まなければならないだろう。実際、この本を初めて買って読むという読者はそうはいないと思うし。手に取るのは、伊集院ファンでしょうからね。
そういう意味では、幼少期やサイドストーリーなど多作を持ってなる彼女らしく、世界観に耽溺することを志向する読者には、たまらないです。
なんとも栗本薫らしい
14歳の伊集院大助最初の事件です。
栗本作品のキャラクターに頻繁に見られる、世間に認めてもらえない子供の焦燥感、でまくりな大助くんです。
既に伊集院大助のシリーズは、名探偵モノではなく、キャラクターモノとしての完成度を追求してるようにも感じられます。もし、この本があなたにとって最初の伊集院大助なら、どうぞ他の作品も一緒に読みましょう。