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黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)

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黒と茶の幻想 (下) (講談社文庫)の商品レビュー

5.0 しんみりしました
こちらは、蒔生と節子の視点で語られる物語です。

蒔生のお当番で、物語全体を貫いていた梶原憂理の謎が解けます。
ただ、かなり最初のほうで、事情はだいたい察せられるかなあ、という気もしました。
ありきたりではあるのですが、ひとまず彼の話で物語全体の山場が終わるかな、という感じでした。

ラストは節子。
彼女の視点で、旅の一行はJ杉までたどり着き、終わりを迎えます。
彼女なりの語り口であらわされる自然の大きさと、蒔生を中心としたどろどろとした人間関係の中、唯一外側にいたかのように見えた彼女の事情とが、よくマッチしていました。
これまでの3章でそれほど内面があらわされていなかった分、節子のお当番はおもしろかったです。

旅が終わる切なさもよく出ていたし、いいお話だと思いました。
恩田陸さん、下手なミステリー書くより、こういうお話のほうが向いている気がします。
5.0 物語、小説の価値を味わえる文句なしの秀作
エンターテイメントでありながらも、人物描写が素晴らしい。
「自己」というものが、いかに多面的で不確かであるかについて描きつつ、
なぜ人が互いに惹かれ合い、嫌悪し合うのかといった関係性の妙、
人生の綾についても、男女4人の語りを通して鮮やかに浮かび上がらせる。
むろん、人生の実像は期待はずれや失望、いたずらの連続である。
それこそ、「小説」のように甘美なものではない。
しかし、この4人のひとたちの、なんと愛おしいことか。
太古の森の彩りに負けず劣らず、人間の泥臭さといったもののがいかに
慈しくひかりに満ちているか、この小説は教えてくれる。
5.0 ジャンルのわけられない小説
 恩田陸という人の作品は、なんとジャンル分けしづらいことか。ミステリもあればファンタジーもあり、オカルトっぽいものもある。では、この作品はどのジャンルに属するか、と考えると、どのジャンルもふさわしくない気がする。食事をしながら、森を歩きながら、交わす会話。時折、過去を思い出す。ふとわいた疑問を口にして、他のメンバーがそれに応える。そんな調子で時が過ぎていく物語。

 上下を通して読み終わって、まず思ったことは、これをもっと若い時に読んでいたら、全く違った感想を持っただろうなあということ。30代になってそれなりに社会での経験も積んで、結婚もして子どももいて、という状況だからこそ、この4人の境遇に自分を重ね合わせてみたりすることもできるのかもしれない。どんな人でも、その人を一言で表すことはできない。この4人もそうだが、人から見た自分と、うちからみた自分は違うし、周りがわかっている自分を必ずしも自分自身がわかっているとは限らない。

 「利枝子」「彰彦」「蒔生」「節子」の4部からなるこの小説は、4人がY島で過ごした数日間の物語だが、こんなふうに、普段は考える必要のないことでも、ある時期には正面からぶつかっていかないといけないこともあるのかもしれない。この4人にとっては、それがたまたまY島への旅行という形でやってきた、ということ。そしてそれをくぐり抜けた時、それぞれが手にするのはなんなのか。

 読み終わった時に、読んだ人の分だけ感想があるでしょう。ただ、おもしろいとか内容に関する感想だけじゃなくて、自分自身のこともふりかえったり、これからのことを考えてしまうかもしれません。
3.0 森をさまよう
恩田陸作品、夜のピクニックを読んで以来、このサイトで評価の高いものを片っ端から読んでます。これはぶ厚いけれど恩田作品の中では読みやすい部類だと思います(夜ピクなみに)。屋久島の湿度ベタベタな深い深い森を自分も一緒にさまよう気分になるのはいつもの恩田節ですが、「蛇行する川のほとり」や「麦の海に沈む果実」や「月の裏側」「ユージニア」のような作品に比べるとライトなんです。登場人物4人の会話が多用されてるので他作品のような重苦しさ(そこが良さでもあります)が薄まってるんです。恩田陸は夜ピクかこの作品から入るのがよろしいかと私は思います。映画にならないかな。利枝子は木村多江さん、彰彦は加藤雅也、蒔生は堺雅人…なんて想像しながら読んでました。
4.0 狂言回し
あの大学生は何だったのだろう?妙に気になるけれども、謎めいたままだ。額に汗した者だけが得られる高揚感が広がる文章は、一人一人の感情を収斂させていく。何かを得て島を後にしたとき、生きる希望がわいてきたのだと思う。

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