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さよなら、サイレント・ネイビー―地下鉄に乗った同級生

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さよなら、サイレント・ネイビー―地下鉄に乗った同級生の商品レビュー

2.0 失敗学は必要。でもだからといって死刑を廃止すべきとはならない。
オウム真理教によって引きおこされた日本犯罪史上に残る「地下鉄サリン事件」。
その実行犯である豊田亨は東大出身であり、その彼とかつて同じゼミに所属し、実験の
パートナーでもあった筆者。あの日あの地下鉄日比谷線に乗った彼と「私」との間には、
どんな違いがあったのか、そしてどんな共通性があったのか。それを探るノンフィクション。

期待して読んだものの、書かれてあるのは「オウム事件」のみならず「ブルセラ少女」や
「モンスターマザー」など、さまざまな問題が社会で取り沙汰されたときにたびたび繰り
広げられるあの「彼らは我々だ」という論調。たしかに、どんな事件にしろそれが社会の
中で起きている以上、同じ社会につながれた我々に関係がないわけではない。
でもそれと我々をいきなり結びつけて考えるのは短絡的すぎるだろう。豊田は、いつまで
経っても独自の研究ができないという日本のアカデミズムのありかたに絶望した後に入信
したのかもしれない。しかし当たり前のことだが当時、彼以外の他の研究者はオウムに
なぞ入らずに、日夜頑張って論文を書いていたのである。たとえそれが、先人たちの教え
を「写経」するようなものであったとしても。
また本文中では、あまりの恐怖体験で脳に血流量が減ってものが考えられなくなるという
ことから、戦中の魚雷回天の話へとつながっていくのだが、どうもそこからの太平洋戦争
の話は、はたしてこの本の論旨の中でどういう役割を果たすのかがわからなかった。

筆者の言うとおり、失敗を詳細に分析して、二度とそれと同じ過ちを犯さないようにする
という「失敗学」は必要なのかも知れない。でもそれだからといって死刑を廃止するべき
ということにはならない。ここでの筆者はずるくて、94年のルワンダで起きた何十万人も
の犠牲者が出た大量虐殺の事後処理の例を出しているのだが、そんな大規模の事例を
あらゆるケースにまで当てはめることは、どう考えても無理があるのではないか。それでは、
これまでもにも何百件も同じような事件があったであろう強盗殺人の被告も、生かされる
べきと言うことなのだろうか。そこから「失敗」を学ぶために。

こういうとき少数派の側に立つ者は、多数派が煽られて極端な意見に走っているということ
を叫ぶ。しかし、時には極端な多数派の意見が正しいに決まっているというときもあるので
ある。そしてそれがまさにこのオウム事件だ。筆者は読者にも豊田にも中立な立場でものを
書こうとしていることは認めるが、このケースにおいては中立的立場でさえ、豊田贔屓にし
かならない。
なにしろ、ポリ袋にビニール傘を突き刺し、サリンを外界の空気に忍び込ませるという大量
殺戮の最終段階を執行したのが豊田亨であるということは、疑う余地なき事実なのであり、
こんな本を書いた筆者がもし遺族にぶん殴られたとしても、それはそれで致し方ないのかも
しれない。
1.0 倫理観のカケラもない醜悪な身贔屓
日経NBonlineで「常識の源流探訪」と言うコラムを担当している著者の博識と独特の発想に関心を持っていた。その著者が大学時代の学友でオウムの実行犯の豊田について語ると言う事で興味を持って本書を手に取ったが、趣きはだいぶ異なっていた。

前半は誰もが知っているオウムの組織及び事件の概要を綴っているだけである。新しい知見や解釈がある訳でもない。サリン事件ゴッコをする始末である。村上春樹氏「アンダーグラウンド」に係って、豊田を「最大の被害者」でもある加害者と書いているのは、二人の関係を割り引いても常軌を逸している。この論を推し進めれば麻原も「被害者」になってしまうだろう。欠落しているのは村上氏の感覚ではなく、著者の"常識"だろう。事件の被害者及び遺族の方の気持ちを真剣に考えていないのではないか。裁判中の豊田の沈黙を著者は、「被害者や遺族の方を慮って」としているが、身贔屓過ぎる。そして、「たとえどんな境遇にあっても、豊田は俺には生涯の親友だよ。」と叫ぶのである。遺族の方の前で、同じセリフが言えるのだろうか ?

私は、著者と豊田との関係から、余人には推測できぬ豊田の個人的事情が浮かび挙がり、それと出家との係り、ひいてはオウムに対する新しい見解が語られるのかと期待した。ところが、豊田は単に研究が行き詰っただけ。後は、マインドコントロールで出家・実行犯をさせられた「無意識の加害者」と言うのではお粗末過ぎる。著者の倫理観に大きな疑問を抱かせる一作。
3.0 9章までで良かった
「創発」、「アフォーダンス」といった興味深い概念を駆使して、なぜ親友の豊田亨がサリン事件を実行してしまったかを著者が辿っていく過程はなかなか知的刺激を与えてくれる。しかしながら、著者自身が「語って説かず」の逸脱とエクスキューズしているように、「あとがき」はさながらアジテーションのようで、その変わり様に唖然としてしまった。気持ちは分かるが、著者の豊田に対する思いは9章までで十分だったのではないか、行き場のない思いを言語空間でシャッフルすることこそが文学なのではなかったかと。
また、これまで死刑の憲法上の問題には一切触れていないにもかかわらず、「憲法に照らして判決の正当性がゆるぎないものであるかという一点」が最高裁で問われているとはいささか唐突だったのではないか。
4.0 科学的に精神構造を解き明かすには…
日経誌などでもコラムが多い伊東氏が大学時代の同級生であるオウム真理教の地下鉄サリン事件の
実行役だった豊田被告とやり取りを交わす中から事件の背後の思想から、戦前戦後日本の深層を
探るという壮大なテーマで書き上げられた書です。
旧日本軍の暴走を引き起こした組織としての精神構造とオウム真理教の暴走における精神構造を
結びつけて解くという着想は非常に面白いのですが、話題の進行に関しては科学的に分析している
ようで、類似点に引きずられたままで「〜だから同じである」という論調で話の飛躍が過ぎると
思います。
オウム真理教が若者を惹きつけた「エセ科学」的な短絡的な結論の導き方を憂いている反面、
自身の結論もその轍を踏んでいないかを厳しく問うべきだったのではないかと思えてなりません。
ただ、視点や話題性の面から考えると、著者の姿勢は非常に重要な役割を果たすものと思われ、
読者が思索を広げるのに十分な題材を提供するものと思われ、その点において推薦したい書です。
5.0 死刑により蓋をすることなく、真実を追究する重要性
豊田亨被告は、東大院理学系研究科物理学専攻の修士修了という経歴から、一連のオウム報道の中で「エリートの堕落」として象徴的に取り上げられた人物です。
私自身も、まあ、自分の能力を鼻にかけて、世の中に相手にされずに、その理想郷をオウムに求めて自滅した人かな、と、そういうイメージを持っていました。
しかし、著者は豊田被告の大学時代の同級生として、豊田被告が、そういうエリートがどうこう、という発想とは完全に無縁で、「子供が「なぜ空は青いの?」と聞くのとほとんど同じ、欲得とか自分というものがない、自然の仕掛けへの好奇心」で学問の道を進んでいたことを解き明かして行きます。
さらに著者は、豊田被告について、関西弁で、軽妙な上方ギャグを連発し、といっても決してベラベラしゃべらずに、キモになるポイントで「ほんまでっかいな?」といった絶妙な突っ込みを入れる柔軟なキャラであったことも紹介し、現在の法廷での「反省がなく、無表情」が、生きていることが申し訳ないと、被害者や遺族をこれ以上不快にさせたくないと、公判を長引かせることなく、いっさい黙って、潔くすべての責任を取る、という覚悟の現れであることを解説していきます。
そして、この著作の極めて本質的なところは、そういう「人格者」が、なぜあのような凶悪な犯罪を実行するに至ったか、という疑問を主軸に、人間の生理、心理、性のタブーを丁寧に解き明かしつつ、「マインドコントロール」の技術や危険性が、歴史的にも、現在も、そして将来もれっきとして存在しているのに、なんら社会的に解析され、予防されないこと、すなわち、教訓が生かされないという事態について、その「真実」を真摯に追究している部分にあります。中には、松本被告本人が、その術に溺れ、組織に利用された可能性を感じさせる部分すらあります。
真実から目をそらし、社会的な感覚などというあやふやなものを根拠に、安易に豊田被告を死刑にして、この事件に蓋をしてはならない、その使命感が、この本に、同級生としての死刑回避の願い以上の確固とした指針を与えています。
私は、裁判なら裁判関係者といった具合に、それぞれがプロとして真実を追究することの重要性を、また、そうでなければ、いかに社会的損失をもたらすかを、この本から改めて教わったように思います。
あと、個人的心情としては、豊田被告、この人物を殺してはならない、少なくとも、早期に無期懲役となった林郁夫被告の著作からは感じられた「胡散臭さ」や「卑しさ」の臭いがまるでないこの人物を、「無表情だから」と死刑にするのは、著しく正義に反する、ということを声を大にして言いたいと思います。
皆様も、ぜひご一読を!!

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