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海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

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海街diary 1 蝉時雨のやむ頃の商品レビュー

5.0 円熟の域
50歳を過ぎ、マンガ家としてのキャリアも30年を超え、円熟の域に達した感のある吉田秋生の技の結晶。「行間」の深い、密度の濃い作品になっています。たった1冊、3編を読んだだけで大きな充足感を得られるのはそのためでしょう。「河よりも長くゆるやかに」のころのインタビューで、美大時代に先生から「バケツを描かせたら世界一」といわれたとありましたが、その頃から(ジーンズは抜群に巧いが、スカートはなんだかゴワゴワ、みたいな)絵柄は一貫してドライで、本作品ではそのドライな絵柄を他者には真似できない「語り」の武器として駆使しています。第1話の表題作「蝉時雨のやむ頃」の終盤での転調など、そこに至るまでのシークエンスを、突き放した視点で淡々と描き重ねたことで物語の効果が幾倍にも増しています。

「鎌倉」「四姉妹」という、幾多の名作を産み、すでに使い古された感のあるモチーフに敢えて挑戦し、しっかりと「吉田秋生の作品」になっているのも素晴らしいです。一時の激情ではなく、さまざまな変転の中でも変わることなく存在する人と人の絆、周囲を取り囲む「世の中」との折り合い、生きにくさといったものを描いて抜群です(登場人物たちはみんな、年齢や経験の割に老成しているようにみえるのは致し方なし、か)。

主人公たちの住む極楽寺の谷戸のように昔ながらの竹垣を維持した家々が軒を並べる路地(この規模で維持されている路地はもうほとんど無いと思いますが)、国道134号線の稲村ヶ崎あたりの舗道、鎌倉駅西口前の小さな広場など、何気ない背景にササッと今日の鎌倉がちゃんと描かれているのも楽しめました(車の通れない路地にも電柱はしっかり立って空を狭くしているところなども含めて)。
4.0 吉田さんの趣味が洗練されていることはよくわかった
「蝉時雨」といっても藤沢周平の小説ではなく、吉田秋生の少女漫画です。タイトルが素敵。2巻まで出てますが、くすくす笑いながら読了。漫画の内容はともかく、もしかしたら吉田さんは病んでるんじゃないかとふと思った。
「病んでいる状態が深刻な人ほど、ブログのエントリが長い」と医師が書いていたが、漫画の場合、「(病んでいれば)フキコマの文字数が多い」(よって読者は絵を見るより文字を読んで話についていく)」。

病んでいてもこれだけナイーブでかっこいい物語を描いてしまうのが吉田さんの才能なのだなぁとあらためて感動したけど、中学生のころ必死で『BANANA FISH』を読んでいたような熱中はなく、なんか吉田さんの趣味が洗練されていて高雅なのはよおく分かったけど、漫画なんだからもうちょっと読者をストーリーと絵そのもので魅了してほしいと思った。みんなのアイドル「すずちゃん」も、こんな女の子がいるのか?っていうほど完璧すぎて感情移入しろというほうが無理だ。
4.0 鎌倉が舞台の「和風・若草物語」。
古都・鎌倉を舞台にして紡がれる家族・兄弟・仲間たちの物語。
3姉妹が家を出て浮気相手に走った父親の葬儀にて出会った腹違いの妹。
行き場を失くしていた少女を鎌倉の家に迎えることにして、4姉妹の同居が始まる。

・しっかり者の看護師である長女。
・男にすぐ騙されるチャランポランな次女。
・ゲテモノ喰いな三女(笑)。
・登場当初は大人しいと思わせつつ、サッカーを男の子たちと嗜む四女。

鎌倉という土地柄が醸し出す雰囲気を紙面上で再現するこの凄さ!
そこに暮らす人々が抱える様々な悩みを通して家族の有り様・姉妹の絆を映し出す。
江ノ電。寺社仏閣。花。息づく歴史。そして・・・・海。

住んでみたい街ランキングでも常に上位(関東圏)という鎌倉の魅力は正に
「鎌倉版・和風若草物語」の世界である。
5.0 四姉妹ものといえば「細雪」を思い出す
失敗作「イヴの眠り」のあと、作者はどこへ行くのかと心配したが、「ラヴァーズ・キス」の舞台、鎌倉に戻ってきた。ハードボイルドに疲弊した(と私には思える)作者にとって、それはリハビリという意味で、正しい選択だったと思う。1・2巻を続けて読む。

両親と生別・死別した三姉妹のところへ、母親の異なる、両親を失った中学生の妹・すずが同居することになる。鎌倉の古い家での共同生活と、どこにでもあるような日常の事件。本当は精密に計算された、現実にはありえない設定なのだが、それを意識させない運びはさすがである。よくできたフィクション=ドラマのお手本のような作品であり、いずれ映像作品が生まれるのだろう。物語中もっとも不安定な存在であるすずの健気な可愛さが光る。次第にすずが主人公のようになっていくのは致し方ないが、四姉妹(「細雪」!)のバランスを今後もうまく保ってほしいと私は思う。

上質な小説に似た読後感がある。人々が互いに思い遣ること、支え合うことの大切さを描いているように思う。
5.0 私を許してくれた作品
「真昼の月」が出たので、読み返してみました。
なんとも稚拙な言葉しか思い浮かびませんが、すばらしいの一言につきてしまいます。

この作品で印象的なのは、キャラクターたちの瞳です。
真ん丸で、まっすぐに目の前を見つめている瞳。
悩んで、苦しんで、分からなくて、それでも綺麗な瞳で目の前の現実を見つめている姿が、とても愛おしく思います。生きて、考えている瞳って、こういうものだと思うからです。
また、それぞれのキャラクターの時折見せる横顔が、本当に美しい。小さな息づかいまで聞こえてきそうな、繊細な輪郭が、その人の生き方を語っているように見えるのです。

また、吉田作品たちの見所の一つでもある、キャラクターたちの生きる世界観のリアルさが、この作品でも表現されています。
家族、友達、土地、空、そういったキャラクターたちをとりまく世界が、確実に、画面の中に描かれていて。それは吉田さんの想像力がいかに(その世界にとって)リアルなものであるかを物語っているのだと思います。
思わず鎌倉に旅に出たのは、私だけではないはず…。

私はまだ子どもだから、読むとどうしても、すずちゃんの気持ちとリンクして読んでしまうのですが、すずちゃんが思いっきり泣いてくれるから、私は救われます。
すずちゃんが泣くから、私も生きていていいんだと思える。
私を認めてくれる、やさしい作品だと思いました。

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