タイヘン面白く読める粒ぞろいのタンペン集
バブル末期1990年から1993年にかけて発表された7編の短篇を集めた一冊。
どれもオモシロい。テッテー的にけだるい高校生数名が、チープなやりかたで死への接近を競い合う「しあわせなら手をたたこう」の虚無的スリルも抜群にスグレているが、他方、狩撫麻礼の原作による「リボルバー」には、謎とサスペンスがあり、ポップ感が濃厚、それでも最後にゃ死ぬテストをしなければ気が済まない、っていうところも大受ケだ。
いずれも、逸脱/脱落していながら、どこか禁欲的な高校生数名が、ただそれだけが己に許された快楽であるかのように、死へのトライアルに酔い痴れる。
それらに比べると、ヤケにうるさくリーダー風を吹かす同級生を、発作的に刺殺する高校生を描いた「ピース」には、じゃっかん退屈さがにじむ。
展開が読めてしまうということか。
同じく、嘲笑されたと勘違いした粘着的で無骨な高校生に、ひたすら追跡されたあげく殺害される少年を描いた「だみだこりゃ」にも、どこか非現実的なムードが漂う。
おとぎばなし的ということだろう。
「夏でポン!」や「ファミリーレストランは僕らのパラダイスなのさ!」といった、不毛な時間つぶしの中で限界まで憔悴しきってゆく高校生数名を描いた作品などもある。
大別すれば、そういうことになるが、いずれも才気溢れる佳品ぞろい、ということで、まずはオススメ。
ヒーロー見参
夏が……。俺達の夏がよ……。終わらねぇんだ。キャッチャーのカーブのサインに首を振ってエースはストレートを打たれた。それで甲子園行きはふいになった。高校野球の放送を聞きながらワンマンのエースとセンターとキャッチャーとサードは卓を囲んで延々と麻雀をし続けた。昼も夜も。甲子園の優勝校が決まる時まで。エースのパイを握る右手には包帯が巻かれている。エースは負けて手首を切ったのだ。
野球不良少年たちの夏。終われる役をあがるまでパイを引き続けるエース。
1973年、夏の甲子園、2回戦、延長12回の裏、雨の降りしきるなか作新学院の江川卓はマウンドに野手を集めた。1死満塁、カウント2ー3。ワンマンの江川がはじめてみんなに聞いた。何を投げる?江川卓の投げたストレートは大きく外㡊??押し出しのサヨナラ負け。江川卓は夏はそこで終わる。
おそらく江川はそこで夏を終えることができたのだ。終わらなかったエースは呟く。
もし取り返しのつかない一球があるとして……それを取りかえす事が……
そう、取りかえすことは絶対にできないのだ。そんなことは分かっている。麻雀で取り返すことはできないのだ。
しかし、松本は取り返しのつかないはずの結論に……結論を書く。
『ピンポン』でペコがスマイルに勝つのは何故か。『夏でポン』のラストでそれが分かる気がする。
松本大洋は不良のヒーローを待望しているのだ。そして松本はそっとそれを見守っる男の子なのだ。松本大洋の青春ブルースは徹底して湘南している。
豊田利晃が俺しか映像化できないと豪語して撮った『しあわせなら扡?をたたこう』を含む『青い春』には松本大洋作品のエスキースに充ちている。多くの作品がこの短編集の作品をベースにしている。