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海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

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海辺のカフカ (下) (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 個人的には傑作
評価が分かれるのも無理はないかな、と思う部分もありましたし、
明確な「答え」が提示されていないのにもやもやしたりもしましたが、
間違いなく傑作だと思いました。

ものすごく簡単に言ってしまえば、これはある少年の成長の物語。
だけど、とても切ない物語。それを魅力的に書き上げてくれています。
性的表現は露骨ですし、最終的によくわからないまま終わってしまった
ふしもありますが、そんなことはどうでもいいのです。
ただ切なく、それでも美しい話でした。


星野青年は第3の主人公です。
彼の考え方は私の考えにとても近いので、非常に身近に感じました。
彼が喫茶店で考えるシーンがとても好きです。
5.0 オモローッ!!
巧みなストーリー展開にどんどん引き込まれて時間を忘れて楽しく読むことができました。この本を読んだここ何日間かは、行き帰り含めトータル30分程度の短い通勤時間が待ち遠しくも感じる充実したひと時だったような気がします。
やはり上質なエンターテイメントは、センスやテクニックの問題も当然あることは確かですが、大前提として作者の世界観とそれに基づくメッセージ性に「深み」がないと成立しにくいものなのだと感じます。そしてこの作品には堪らなく「深み」を感じます。人種の枠を超えて世界中の人々を虜にする理由がなんとなく分かるような気がします。

作品の味わい方については読者により様々な切り口があるかと思いますが、例えば・・・。
「戦争」「平和」といった問題を扱うのは大変困難であり、実際に多くの表現者が果敢にアタックするものの脆くも砕け散っているのではないでしょうか。そんな中、村上春樹はこのような問題に、受け手が納得する「深み」を持ってアプローチできていると思います。
この物語には、登場人物の言動から物語が展開している舞台そのものに至るまで、多くの仕掛けが埋め込まれています。読者は「宝探し」感覚で村上春樹のメッセージをひも解く作業をすることになるのですが、一生懸命ひも解いたものが、極端な話、使い古されたイデオロギーの押し売りであったり、奇を衒い傲慢に人類の普遍性を乗り越えようとした野暮ったいものだったら興ざめですよね。でも、実際多くの映画や小説はその域を乗り越えていないと思うのです。
一方、これは村上春樹の人間性そのものだと思うのですが、この作品では人類の普遍性に対しても、また、我々を取り巻く社会規範のようなものに対しても何も挑まず全て受け入れる強い信念を感じます。そしてその普遍性の中には「知性」がすっぽりと収まり、この作品に多数登場する音楽や文学が構成要素として埋め尽くされていることはあっても、例えば「自由」という名の破壊行為が入り込む余地は一寸たりともなく、「暴力」「戦争」という魔物が目的達成のために利用可能な媒体としての「空白」もありません。

田村カフカ君が過ごした森の中の小さな小屋のように、そのクローズされた空間から逃れ、全てを捨てて森の奥に突き進もうとする行為は、未だ見ぬ自由への探求心であると同時に人間的な崩壊を意味するものになってしまいます。
人間は言葉としては「自由」も「想像力」も好きです。そして人間の普遍性を超えた未知の領域として自由を求めたがり、更にそこに安息地を求めてしまうものです。ときには戦争をしてでも。ひょっとしたら、「そこにはいくら探しても安息地なんか見つからないんだよ」と教えてくれるものが「知性」なのかも知れません。そんなことを感じました。
5.0 語り得ないものを語るために
私は、このような長編小説を読むのは、久しぶりでした。
リアリティーのないストーリー。ファンタジーとも、SFとも言えないような世界。だけど、そのストーリーには、リアリティがある。
読み進むにつれ、リアリティーのないストーリーに、真のリアリティーを感じました。普段のコミュニケーションでは、通じることのできないような、複雑な深層心理を小説に表現していて納得させるからだと思いました。

ふたつの大きなテーマを感じました。『暴力の意味』、そして『記憶と喪失』です。
それから「メタファー」という言葉がキーワードになっているのか?と、思うほど、よく、使われています。私は、これを読者に対するキーワードのように考えました。この小説は、私の心、そして読者の心のメタファーなんだと。
語り得ないものを語るために小説はあると言うのなら、村上春樹さんの小説は、まさしくそれだろうと、思いました。
4.0 教養への暴力
非常に興味深い作品でした。小説は本来前提とする知識を懇切丁寧に提示しないものですが、この作品には詳細すぎる引用がつき、しかも著者の解釈まで述べています。こうして、必要とされる教養を提示し、主題部分に入ります。教養の導入では絶対に誤読を許さない姿勢があるのに対し、主題部分は筋こそ丁寧に解説してありますが、メタファーが一義的には思えず、感覚的に分かっても、言語で説明するのは困難です。教養主義者と共に小中生にも開かれたテキストですが、知識に頼らずどこまで読めるかが測られます。教養人と呼ばれる虚飾を暴力的に否定している大作です。
5.0 聖人と使徒の物語と迷える若者の物語の合流点
 舞台が完全に四国に限定される下巻になっても、相変わらず少年の物語と老人の物語は、淡々と並行して交互に語られます。「ハイドン」などの共通項が、トランプゲームの神経衰弱のように配置され、ついに「入り口の石」を巡って、二つの話は合流します。しかし二人は結局出会うことはありません。

 そして読者は、著者から叩きつけられた挑戦状を意識するでしょう。ナカタ老人は一体何を象徴し、星野青年は一体何を代表しているのか。大島さんはなぜ登場しているのか。カフカ少年が高知の原野で見たものは…
 読者は数々の問いに対して、自分なりの答えを用意しなければならないでしょう。そうでなければ、この小説を読んだ意味はありません。中でも、ナカタ老人が象徴するものについての考察は必須課題かもしれません。

 二人の人間の「死」を経て、オイデップス王の場合とは異なり、最後に少年の「生」への前向きな決意で話は終わります。もう一つギリシャ神話と大きく違うのは、「姉」が介在することです。それとの関係性も含め、これからの少年の人生にあれこれ考えを巡らせることにしましょう。それは最後まで読み切った読者へのご褒美でもあります。

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