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卍 (新潮文庫)

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卍 (新潮文庫)の商品レビュー

3.0 実験???
この題は何を象徴しているのでしょうか。まさか絡まりあった人間関係を物理的に示したとは思えませんが。その後の「細雪」とは違い、舞台と時間が広がることはなく、かなり限定されています。昭和初期の社会の変貌を示唆する部分は最小限の舞台装置に限定されています。映像と違い、「告白」という形を借りた文章という手法ではそれほどスキャンダラスな印象を直接的に与えることはありません。最初は女性同士の関係、そして男性を含む不思議な三角関係、そしてもう一段ひねりの入った三角関係への転換と進んでいきます。細雪とは違い、最後には、たしかにそれなりのdenouementは用意されています。というよりも結末は最初から示唆されているといった方がいいでしょう。私は大阪弁を使った文体の実験小説と捉えました。そしてその文体とテーマはそれなりの平衡感を示しています。
4.0 繊細に響く関西弁が、…
 ストーリーは、同性愛を導入口とし、晩年に孤独となってしまった悲しい女性の語りである。良家の生まれ・インテリジェンス・恵まれた家族環境にありがら、悪女:光子の虜となってしまう。その果て、光子の影にいる怪しい男と亭主との、まさに雁字搦めの卍となる。自身が開放された時には、亭主も光子も失っていた。その後ずっと女一人で、園子は生きて来たのでしょう。物悲しくともやたらに口に出来る話ではない。
 このお話を同姓愛文学と捉えるのが一般であるが、谷崎先生はそこを意図したとは思えない。むしろ、女の語り得ない悲しい一生の一形態を描かんとしたと感じます。また、繊細に響く関西弁が、ストーリーをいっそデリケートに仕立てる役割を果たしたとも記します。
4.0 破滅の描き方
谷崎先生中期の代表作。

良家の若妻・園子(25くらい)と良家の令嬢・光子(23くらい、美女)との恋の顛末を描いている。

こう書くと、スキャンダラスとしかいいようがない、行き場のない恋である。ハッピーエンドというのはありえない。園子と光子は、アルゼンチンに逃亡して幸せに暮らしましたとさ、というのも、論理的にはありえるが、読者をばかにしている気もする。(そういうのも2006年的にはありだが)。

ハッピーエンドというのはありえないので(もちろん上記のような意表をついたハッピーエンドというのもありえるのかもしれないけど)、小説の展開としては、いかにその破滅を描くかというところに焦点が絞られると言ってよい。

考えられる力点は:
1. 破滅に向う許されない恋だからこそ燃え上がる肉欲の情熱に筆力を注ぐ(渡辺淳一系)
2.許されない同性の恋であるが、だからこそ、そこにあるかもしれない清らかな同性の愛情を描く(江國香織系)
3.破滅こそが美しい(太宰治系)
4.なんとなく破滅的な気分だった(辻仁成?)

谷崎は、3.に近いが、もう少しひねている。太宰は積極的に破滅を目指しているような気がするが(死に方を見てもそうだが)、谷崎は、おっとりした日常に、どうしようもなく避けがたく深い落し穴があることを描く。

語り口は一貫して穏やかな上方言葉。神戸っぽい。穏やかな中に、破滅に向かう人たちの物語が語られるのは、不思議な迫力がある。

そういえば、触れるのを忘れそうになったが、実は意外な結末も用意されていて読後も印象に残る一冊である。
5.0 耽美
 
 意外な展開を繰り広げる日本屈指の同性愛の文学。
 今、巷に溢れかえっている同性愛小説とは、全くの別物です。
 由緒正しき「耽美」がここには存在します。

 読後。
 しばらくは、谷崎の世界から現実世界を見ることなかれ。
4.0 谷崎文学の真骨頂
舞台は関西、大阪や宝塚、西宮などの懐かしい地名が数多く顔を出す。そして、題材は婦人と少女の同性愛。だが、作品を通して漂う妖艶な芳香と、意識の流れを彷彿とさせる独白的文体を媒介として描き出される泥臭いまでの人間心理は、単なる耽美的な同性愛小説という枠組みを越えて、日常に潜む狂気性と異常性をまざまざと見せ付ける。

特徴的なのは最初から最後まで関西弁で綴られているという点である。谷崎が関西に移り住んで間もない頃の作品というだけあって、ところどころ関西弁に拙い部分が見受けられるものの、全体を通してそれほどの違和感はない。婦人の語りの中で、様々な登場人物の発話と出来事の順序が錯綜し混乱を誘う。文体的にも極めて興味深い。

外国人の日本語学習者にとっては最難関の小説ではなかろうか。

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