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晩年 (新潮文庫)

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晩年 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 咲クヨウニ。咲クヨウニ(敗者の祈り)
 「猿面冠者」を私は好きだ。書き出しが、まず、印象的だ。書き出しの数行で、その作品のよしあしを判断する傲岸不遜な男がいた。この作品の書き出しは、確か、そんなはずだった。
 この作品でもう一つ、印象的な描写は、殺される本人の告白のとおり、少女の殺しっぷりである。私は、この少女のモデルは、ドストエフスキー「虐げられた人々」のネリーではないか、と勝手に思い込んでいる(ちなみに私は、ネリーをこっそり、女イエスと呼んでいる)。「富嶽百景」に出てくる天下茶屋の娘さんにも通ずる、純粋な応援ののち、少女は、指の先から消えていく。
 ネリー、といえば、同じ『晩年』に収められている「葉」の断章の一つで、ネリーと同国人ロシアの少女が登場する。この少女の、「咲クヨウニ。咲クヨウニ」という祈りの言葉が、いい。日露戦争で、ロシアは日本に敗れた。日本橋に来ていた彼女の祈りに、太宰は、敗戦国ロシアが幸福になるよう、祈りをこめたのではなかったか。……などと読むのは、深読みだろうか? いずれにせよ、わが身は虐げられようとも、自分を虐げた者の幸福を祈る少女の姿は、切なく、美しい。敵を愛せ、というイエスの教えを、少女は守った。太宰は、このイエスの教えに、美を感じていたのではないか。……などと読むのも、深読みかもしれない。だめだ、こりゃ。
 「逆行」についても一言。伊藤一郎氏の論稿「寓話としての「河童」」を読み(レビューは別のところに書いた)、この「逆行」からも、太宰の母胎回帰への願望を読み取ることが可能かもしれない、と考えたが、これもまた、深読みかもしれない。
4.0
「逆行」「ロマネスク」「陰火」など、巧みな文章と粋な語りで、さすが太宰治、と感服した。
しかし、「道化の華」など、小説を書く苦悩を前衛的な手法で描いたものに関しては、いまいちよくわからなかった。
5.0 傑作
 晩年と題された、初期短編集の傑作。メタフィクションなどの前衛的な手法を取り入れつつ書かれた、苦悩の作品。太宰ほど小説を理解していた作家というのも、そして、小説を書くことの苦悩を表に出している作家もめずらしい。
 ある作品の登場人物が、いま小説を書いたって、どうせ百年も前にもっとおもしろい小説が書かれている。小説なんて書いたって意味ないさ、というようなことを言っています。
 そのとおりなんです。すでに書かれつくされた感のある小説。現代文学は古典・近代文学の存在を前提にして発展するしかなかったわけですが、それでもまだ小説に可能性はあると思うんです。己の作品でこう書いた太宰はすくなくても現代でも読まれているわけで、だったらまだまだ現代文学は捨てたもんじゃないぜ、と思うのですが。
5.0 糧のためではなく、嘔吐の如く書かれた作品
葉に書かれた「ノラもまた考えた。・・・」等のフレーズにより、人形の家をいとも簡単にひっくり返す技や、「水至りて渠成る。」の決意表明、性悪説の読者や漫然と読んでいると太宰の技に嵌る工夫など、現在の作家には見られない読者を試す小説です。近親相姦を描いた「魚服記」は短編の最高傑作と思います。目次的な本編「晩年」と総括編的「人間失格」が太宰治を楽しむ近道と思います。
5.0 最高傑作
太宰治は好きで全集まで全て読んだが、この作品集と
「新釈諸国噺&お伽草子」が双璧で面白いのでないかと思う。

太宰の本当の晩年の独りよがりの暗さは少なく(道化の華くらい)、
作品の一つ一つに「何か新しい工夫を」というのが感じ取れる
「珠玉の作品集」という言葉がぴったりくる作品だ。

どれも面白いのだが、オススメは「葉」「道化の華」「猿面冠者」
「逆行」「彼は昔の彼ならず」「紙の鶴(「陰火」に収録)」
あたりか。

「葉」は捨ててしまった小説の中のどうしても捨て切れなかった
センテンスが並べてあるのだが、一通り読めば誰でもいくつかは
心に響いてくるフレーズが並べてある。
「道化の華」「猿面冠者」は題材もさることながら、手法が今日
に至っても新鮮に感じられることが素晴らしい。
「逆行」「彼は昔の彼ならず」は多少、暗くて重い題材を扱って
いながら、それを全てユーモアでくるんで面白さのみを読者に提供
していて、本当の晩年には無い太宰のサービスが現れている。
「紙の鶴」は個人的に一番好きなのだが、主観的には重過ぎる題材を
扱っておいて、他者(読者)には滑稽さしか感じさせないところが
素晴らしい。パラパラと読むと見逃しがちなので、これだけは読んで
頂きたい作品である。

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