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虞美人草 (新潮文庫)

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虞美人草 (新潮文庫)の商品レビュー

4.0 通りすがりのバイオ研究者
小野は一旦は打算で藤雄さんと結婚しようとするが、それを翻し恩師の娘である小夜子と結婚する
はめに至る。死を選ばざるえなかった、「藤尾の死」は如何に理解するべきか。
こころにも通じる主題であるが、主人公の何気ない日常生活に含む言動の中に、
人を殺すエネルギーが内包されていることを、現代人はもう一度改まって
考えるべきではないだろうか。
4.0 漱石の初めての新聞小説
甲野さんと宗近さんの比叡山行のすぐ後、藤尾が小野さんからクレオパトラの講釈を受けるくだりがある。これがこの小説の伏線になっている。「虞美人草」は漱石が新聞社に入社して執筆した初めての新聞小説である。地の文体は、「草枕」に見られる漢文読み下し調(漱石の独白のような)と、どこか江戸趣味を思わせる洒脱な語り口が混ざる。日露戦争後の明治40年に新聞に掲載されたが、「ロシアでは虚無党が爆裂弾を投げている」といった表現や日英同盟の話題は読者を意識したものであろう。そして上野不忍池で行われた博覧会(明治40年の東京勧業博覧会のことか?)がこの小説の重要な舞台となっている。

小説は、周到な筋立てがなされて、登場人物が勢揃いした後、急転直下の大団円を迎える。登場する人物は多いが、大団円になると夫々の人物像がわかりやすく明確になってくる。やや人物が類型化され過ぎているきらいがあるが、漱石にとってこの作品は、初めての新聞小説として実験的な意味合いもあったのではないか? これから漱石は膨大な作品のなかで、この小説に見られた人間像を深化させていくことになる。
5.0 人間が誕生する瞬間を描くー人間の条件とは「引き受ける覚悟」である
漱石の描く人間模様は微妙である。登場人物がさりげなく考えていることを、理屈立て細かく論じ、描いているのが著者の考えなのか登場人物のものなのか微妙である。風景は擬人化され、逆に人の心の中は風景として描かれ、これもまた微妙である。微妙さの中を歩むのが快適である。一方で微妙な感情を解りやすく露わにしてしまうことで、読み手の心に登場人物の心の中を突き刺してしまう。姜尚中先生が朝日の夕刊で述べているが(2007年10月10日)漱石は悩む人(悩む力を持った人)である。そこへ突破者としての宗近君が現れる、宗近君は悩む漱石を叱咤激励する漱石本人の姿である、私たちも漱石にならい、日々悩みながら自分の宗近君に叱咤激励してもらう必要がある。久しぶりに読んだが、やっぱり漱石は良い。ちなみに内田樹先生は、宗近君は悩める明治の若者に対する漱石からの回答であると言っている( 「おじさん」的思考 :晶文社)
4.0 漱石の女性観がストレートに出た作品
漱石の中では評判の悪い作品である。後に、漱石が小宮豊隆氏に送った書簡中で漱石自身が本作品に対する嫌悪感を露わにしている事もその後押しをしている。元々、本作は気儘に書いた(と思われる)「猫」、「坊ちゃん」と異なり、漱石が朝日入社後、初の新聞連載小説として連載したため、一般読者受けする内容にせざるを得なかったという制約もあるだろう。実際、連載中の評判は良かったそうである。私も起伏に富んだ面白いストーリーだと思った。

男の心を弄ぶ妖婦藤尾が最後には自殺に追いやられるという勧善懲悪的ストーリー。家と家との間の因習的関係。その中で起こる「ハムレット」的お家騒動。題材は悪くない。実際、本作は「ハムレット」を下敷きにしているというのが昔からの定説である。漱石の手柄は、王侯貴族物語「ハムレット」を、市井の人々の物語として甦らせた点にある。これが、英国近代文学に対する漱石の一つの回答であったろう。そこで、問題となるのは藤尾の評価である。現代の女性なら、自分の結婚相手の男は自らの利益を考え自分で選ぶのが当然だと思うだろう。だが、当時は過激だったのである。

実世界において、漱石の夫婦生活が破綻していたのは周知の通りである。本作では漱石が持つ女性への嫌悪感がストレートに出過ぎてしまって、それが冒頭の自戒に繋がっていると思う。次作の「三四郎」の美禰子も男を惑わすが、謎の女として描かれている。そして、最終作「明暗」(未完)まで、この男女関係は漱石を悩ませながらも変らぬモチーフとして続くのである。
5.0 漱石こそ最前衛である。
 この漢籍に裏打ちされた文体、俳句をつなげたようなと、自ら称した音楽性。文化の最前列に列せられる文学である。「朝日新聞」に連載されていたとされるが、大衆性を全く無視し、俗気など一顧だにせず、洗練された文体で、難解といわれることを恐れずに、貫き通したのは、素晴らしいの、一語に尽きる。
 またこれを受容できた明治時代という高踏さ。現今の下卑さは、平伏すしかない。…比べるのもおこがましい。

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