漱石も・・・
この日本文学の大先生でさえも、自分は馬鹿で人に騙されるか、
あるいは疑い深くて人を容れることができないかどっちかしかないように思う。
悪い人は信じたくないが、いい人を少しでも傷つけたくないなどという
人間らしい悩みがあったんだなぁと思うと、とても親しみがわきました。才能がある人はいろんなことに達観してそんなことには悩まないのではないかという
イメージがあった私はなんだか安心したりしました。
私は他の方より少し変かもしれないのですが、漱石の本を読んだのはこれが最初でした。
(普通は他の作品を読んでからこれを読むようなので。)
見ず知らずの一般読者の人にいろいろ頼みごとをされて、
その人が失礼な人にもかかわらず頼みを聞いてあげたり、
そんな人に振り回されて浮き沈みをしてしまう人間臭さにも意外性もあり、
漱石の優しさが感じられるエピソードでしたが
なんとなくユーモアがあり、この章(十三)を読んだときは笑ってしまいました。
具合が悪くほとんど外にでない漱石が、硝子戸の中にいてもいろいろなことが
あったんだなという、随筆集で漱石の意外な面を知りたい人は読んでみると
面白いと思います。
他人の目
朝日新聞に連載したエッセイ。
本書の出だしで、なにか言い訳がましく、読者に配慮しています。それほどに他人の目を気にする作者が物語りという虚構を使わず、ただ率直に思ったことを書き連ねているところに尊敬の念が生じました。
作品には番号が振ってあって、好きな作品は、9,19,33です。とくに9は、本書のいたるところで人の死、自身の死の話が出るなか、なんの特徴もないごくごく日常に見られるありふれた出来事を描いているだけなんですが、このひとつの作品だけで気持ちが救われます。私の心が和んだという意味で。そして夏目さんが、作品の中の気持ちに素直になれてそれを作品として残せたという意味で。できることなら、もう少しこんな気持ちになって欲しかった。