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坑夫 (新潮文庫)

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坑夫 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 漱石作品で最もおもしろい
2人の少女がきっかけで家出を決意する青年の、暗く堕落した坑夫に成り下がっていく様を描いた作品…
と書けばそれまでだけれども、この青年の、
現実問題に悩んで葛藤したり、気持ちが右へ左へと定まらなかったり、堕落していく自分の姿に嫌気がさしたり、下劣で品のない人間にむかついたり…
といったような主人公の境遇は、同じような経験のある(たとえ家出経験はなくとも)同年代の少年少女なら些細な心理描写も深く通じるものがあるとおもう。(特に安さんとの出会いの場面は最高!!)
夏目漱石にしてはめずらしく小説の構成を排除したルポタージュ的作品で、漱石作品の中ではかなり評価の低い作品ではある。けれども、主人公と同じ頃の齢の(十代二十代ぐらいの)少年少女には是非薦めたい作品であり、この作品『坑夫』で漱石に対する価値観が一遍に変わってしまうはずでしょう!
3.0 論文にも通じるロジカルさ
『虞美人草』の次に発表されたこともあり、非常に地味な本作。前作が絢爛豪華で劇的、典型的な勧善懲悪モノだったのに対し、事件は一切起こらず、人物を型に嵌めることを極端に嫌うスタンスで貫かれています。こうしたアプローチの180度の転換は『草枕』と『野分』の関係にも似ています。

特筆すべきは、何にも起こらない中で主人公の心境変化をありのまま克明に且つロジカルに順を追って描きとめようとする姿勢で、小説というより論文を読んでいる趣さえあります。末尾で「小説ではなく事実を書いた」とある如く、自ら大学で講義した『文学論』にも基き近代的アプローチで従来にない新たな「小説」を創作しようとしたのかも知れません。

余談ながら作者は坑夫を人間以下の代名詞として捉えており、職業に貴賎があることは今も昔も変わりませんが、当時はそれを公言しても問題なかったことが窺えます。
5.0 現実を知るきっかけに
かつて炭鉱で働いておられた高齢者から、座敷の隅にへばりついていた処を呼ばれ、返杯をすませたおりに炭鉱の話を伺った。

重労働の後は、飯は食い放題、異性と遊び放題という珍味酒肴の席に興を添える話であったと思う。

その後、上野英信や森崎和江などの著作を読むうちに辿り着いた。

若い頃、どうしても或る場所に行くのが嫌で、がむしゃらに他所へ出かけていた。

しかし、逃げてもいずれは現実を知らなければならなくなる。ということを考えさせてくれた一冊である。
4.0 漱石の異色作
本書の成り立ちは尋常ではない。漱石自身の説明によればそれはある日ひょっこり漱石を訪ねてきた未知の男が提供した「材料」によってできたものである。この材料とは体験談だけでなく体験記でもあったろうと想像される。
何らかの問題があって家出をした19歳の主人公はあてどのない旅路で坑夫の斡旋屋に声をかけられそれに従って長い山路を歩く。途上で彼と同様の坑夫志願者は3人になり、青年は社会の下層でうごめいている得体の知れない人物たちの世界を垣間見ることになる。この道中とその間の異様な見聞に対する青年の内的反応がこの本のほぼ半分を占める。漱石を崇める人には申し訳ないが青年の江戸戯作者風の饒舌はいささか退屈である。
いよいよ鉱山にたどり着いてからの後半に入って漱石の本領が発揮される。話は急に緊張の度を高める。そこに描かれる坑夫たちの生態は異様な迫力を持って外来者を圧倒する。青年は早速、狭くて暗い、濡れてどこまでも深く、危険に満ちた坑内の下見に連れ出される。それは地獄めぐりとしかいいようのない過酷な体験である。
広く知られる漱石の作品の多くは彼を取り巻く世間とその時代の人間関係を描いている。そこに社会という観点は乏しく、姿を見せたとしてもまもなく背景に退いてしまう。彼の関心はむしろ西洋に対比される日本という国家であり、彼の世界はそこに住む知的中産階級といってよいだろう。この意味で下層社会に降り立ってそれを直視しようというこの作品は異色である。そのような、これからどのようにでも展開されようという素材が道半ば、おそらく末尾3分の1を残して突然終ってしまうのはなんとも惜しい限りである。
4.0 三部作のプロローグ
 漱石の作品中、もっとも地味な作品である。

 気弱で優柔不断な主人公が、逃避行する中、周旋屋に出会うことから話が始まる。都会に出てきた三四郎がカルチャーショックを受けるがごとく、鉱山社会に右往左往する。

 結末、虚弱とキャリアが幸いし、自らの新しい活路が開けた。さらに、鉱山社会おけるすべてを清算して、娑婆に帰れることになった。芸が身を助けたのである。

 「坑夫」、漱石は脆弱な高等遊民を戒める三部作の準備として記したのでしょう。
 

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