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坑夫 (新潮文庫)

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坑夫 (新潮文庫)の商品レビュー

4.0 漱石の異色作
本書の成り立ちは尋常ではない。漱石自身の説明によればそれはある日ひょっこり漱石を訪ねてきた未知の男が提供した「材料」によってできたものである。この材料とは体験談だけでなく体験記でもあったろうと想像される。
何らかの問題があって家出をした19歳の主人公はあてどのない旅路で坑夫の斡旋屋に声をかけられそれに従って長い山路を歩く。途上で彼と同様の坑夫志願者は3人になり、青年は社会の下層でうごめいている得体の知れない人物たちの世界を垣間見ることになる。この道中とその間の異様な見聞に対する青年の内的反応がこの本のほぼ半分を占める。漱石を崇める人には申し訳ないが青年の江戸戯作者風の饒舌はいささか退屈である。
いよいよ鉱山にたどり着いてからの後半に入って漱石の本領が発揮される。話は急に緊張の度を高める。そこに描かれる坑夫たちの生態は異様な迫力を持って外来者を圧倒する。青年は早速、狭くて暗い、濡れてどこまでも深く、危険に満ちた坑内の下見に連れ出される。それは地獄めぐりとしかいいようのない過酷な体験である。
広く知られる漱石の作品の多くは彼を取り巻く世間とその時代の人間関係を描いている。そこに社会という観点は乏しく、姿を見せたとしてもまもなく背景に退いてしまう。彼の関心はむしろ西洋に対比される日本という国家であり、彼の世界はそこに住む知的中産階級といってよいだろう。この意味で下層社会に降り立ってそれを直視しようというこの作品は異色である。そのような、これからどのようにでも展開されようという素材が道半ば、おそらく末尾3分の1を残して突然終ってしまうのはなんとも惜しい限りである。
4.0 三部作のプロローグ
 漱石の作品中、もっとも地味な作品である。

 気弱で優柔不断な主人公が、逃避行する中、周旋屋に出会うことから話が始まる。都会に出てきた三四郎がカルチャーショックを受けるがごとく、鉱山社会に右往左往する。

 結末、虚弱とキャリアが幸いし、自らの新しい活路が開けた。さらに、鉱山社会おけるすべてを清算して、娑婆に帰れることになった。芸が身を助けたのである。

 「坑夫」、漱石は脆弱な高等遊民を戒める三部作の準備として記したのでしょう。
 

5.0 心は三世にわたって不可得なり(江戸っ子夏目金之助)
べらぼうにおもしろい。
理屈はさておき、とにかく自由である。
「近代的自我? 知るか、んなもの、こっちとらぁ江戸っ子でぃ」と言わんばかりの、まさに宵越しの金は持ちそうにない語り口が、最初から最後までつづいていく。それがなんとも心地よい。
個人的な話だけど、実は漱石を「努力せずに」読み通せたのはこれが初めてである。まったく見方が変わってしまったといってもいい。こんなのばかり書いていたら漱石さんも神経症やら胃潰瘍やらにならずにすんだのに・・・とさえ思える。(こんなのばかり書いているわけにはいかなかったのだろうけど)

いわゆる「推薦図書!!」になるような漱石の作品がどうしても苦手、という人にはぜひ一読を。

4.0 世界が変わる
ある事情から家を出奔した青年がさほど理由もなく長蔵という人に誘われ坑夫になりに鉱山へ。途中、赤毛布と小僧も道連れにし、着いた鉱山で目茶目茶な目にあう。

青年が過去にあった出来事を今の視点から分析しつつ独白しつつ話が進んでいきます。

赤毛布というあだ名の奴に、さらにあだ名をつけたり、そっけなく青年の周辺人物(そして青年自身も)が揶揄されていて出だしは面白おかしく読むでいました。

鉱山に行ってから、だんだん暗く辛くなってきて、最後の方、青年が、もう俺は死ぬんじゃなかろうか?と考えてからの現実世界の見方がガッツンときました。今までのせせこましい心がもう空っぽになっています。
鉱山で出会う安さんとの会話やその関係性に少し涙を。

相変わらず、漱石さんは名文です。

4.0 意識の流れを追ったドキュメンタリー風の作品
作家としての漱石の、『虞美人草』に続く新聞連載第二作目。漱石に自分の体験を小説にしてほしい、と申し入れてきた青年荒井某の話を元にしている。

訳あって家を飛び出した19歳の主人公は、ポン引きの長蔵に坑夫にならないかと声を掛けられ、二つ返事で承諾してしまう。途中で赤毛布、小僧もメンバーに加わり、銅山まで旅する。辿り着いた先の飯場で坑夫たちに嘲弄されながらも、翌日主人公は炭坑の奥深くへと降りていく……。

主人公の意識の流れがさまざまな要因によって、右へ左へと180度変わってしまう様子を、物語の当時から時間も経って成長した主人公の視点から分析していきます。極限状況の下で、いかに深層心理が浮かび上がってくるかを省察した好著です。

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