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春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)

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春の雪 (新潮文庫―豊饒の海)の商品レビュー

4.0 溢れる美意識
【豊饒の海】の第1部です。
映画化もされて有名ですが、作品中に流れる独特の空気や世界観が、
ただもう美しく圧巻です。
綴る日本語や描写の美しさも然る事ながら、舞台となる貴族社会の儚さや、
主人公である清顕と聡子の外見、内面、生き方、振る舞いの優雅、
叶わぬ恋の激情の最中で、偏執した感情と狂気、命がけの恋を貫く強さと美しさ。
三島文学独特の美学ではないでしょうか。
ほんと日本語って美しい!
5.0 ストーカーの原型か?
【ネタばれ】

春の雪が降る中での人力車内での密会のシーンなど

「恋愛」小説には絶好の美しい背景が構築されていながら、

普通の恋愛小説のようには話が進んでいかない。

聡子が髪を下ろしたのは、一時的に身を隠して

将来自分といっしょになるためではないのか?という

「ありえない」希望をき清顕が抱くあたり、そして

一目聡子に会いたいと願う清顕の願いが受け入れられないのは

門前まで車を乗り付けるという気の緩みがあったからではないか?

病気を押しても、歩いて会いに行けば許してもらえるのでは?

などと不思議な自問自答に終始しながら衰弱していくあたりに

残酷なリアリティを感じました。

こんな自分ひとりで生きているような男が、これから後、どうやって

現実の中で生きていくのか?

明治維新の時代の気骨のある祖母は、清顕を現実に着地させられるのか?

また、生きていく力はなくても松枝家の財力がそれを許すのか?

などと思いながら読み進んでいたら、清顕は死んでしまいました。

『奔馬』はどう展開するのか楽しみです。



5.0 日本文学の美しい頂の一つで。
多くの方々が一つの誤解の上に三島のこの作品もまた評価している。三島の文章は美しい文章かも知れないが、けっして「美しい日本語」ではない。それは過剰な外延のバロック的氾濫であり、醜と紙一重の、危うい均衡の上に構築された、良く言えば巧緻な、悪く言えば大仰な、畸形の日本語なのだ。三島の作品を読んでいて、後頭部に観念の滓が重たく沈殿していくような感覚に襲われるのは、そのせいである。
三島が最後に渾身の力を揮って彫琢した、人工の鋭鋒。その純白の峰々から紫の薄雲を透かして、今、我々の前には、どんな眺望が射影してくるのであろうか。願わくば、それが豊穣の海であらんことを!!
5.0 日本文学における一つの頂点
これほどにまで美しい日本語に触れた事はありません。
読んでいて震えと溜息が止まりませんでした。

今は失われてしまった(三島氏に言わせると戦後の経済発展と共に我々が棄ててしまった)、美しい精神がまだ活きていた頃の四季豊かな日本に触れる事が出来ます。(三島氏の発言については『果たし得てゐない約束−私の中の二十五年』を参照されたし)

何より素晴らしいのが、瞼の裏に鮮やかに浮かびあがる情景描写の圧倒さ!
そして手に取るように伝わる清顕や聡子達の心理描写に於ける表現力の巧緻さ!

登場人物の感情は勿論の事、感触、温度、匂いといった五感、更にはその時の心拍数に至るまでが、まるで我が事かのように強烈に伝わって来ます。
私は毎回、読後は余りの表現の美しさに当てられてしまい、暫くは酔ったように上気し惚けてしまいます。

日本に生まれ日本語を話せる事を本当に良かったと思える一冊です。まあ、話せるのと理解するのは別の問題なんですが。
知らない日本語がバンバン出てくるので国語辞典と首っぴき状態でした・・・

海外でも多くの国で翻訳され愛されている三島作品ですが(翻訳数では特にイタリアなど)、しかし他国語に翻訳すると、この作品が放つ繊細な日本語の美しさが損なわれて表現しきれないのではないか?と思ったりもします。
三島作品は日本語でこそ最も輝くのだと!

私は、ドストエフスキーにトルストイ、ヘッセやシェークスピアなどを原文では読めず、訳者のセンスに頼るしかない海外作品に触れる時、少し寂しくなる事があります。
「今、読んでいる翻訳された作品は、著者の私生児のような物なのか? 原文(嫡子)を読んでいる人達の受ける感動に、限りなく近付けたとしても決して同列になれないのでは?」という引け目を感じるからです。(訳者の先生方、すみません! 原文が放つ音の美しさなどを知る、知らないは私の学力の問題だと百も承知です。)

しかし、もう寂しくありません!
何故なら日本語には三島作品があるのだから。
三島作品を一番楽しめるのは我々なのだから。

日本人の文豪は三島由紀夫以外にも居ますが、日本語の表現力にこれほどにまで感動したのは初めての経験でした。
おかげで日本語に誇りを持つという、巡らせた事もない考えに目覚めました。
当たり前に使用し過ぎていて価値に気付かないでいたんですね。三島先生、有難うございました。


没後40年近くになりますが、私はまだ世間の三島由紀夫への評価は不十分だと思っています。
未だに三島事件の印象が強すぎて、戦後の事勿れ主義的欺瞞な平和主義に浸りきった我々日本人には著者への冷静な評価が出来ないでいるのだと。
哀しい哉、三島文学は世界の方がよっぽど評価しているのが現状です。

新渡戸稲造の『武士道(Bu-shi-do)』や映画『ラストサムライ』のような逆輸入型自国再評価、再認識の羞恥をあと何回繰り返せば我々日本人は自国を誇れるのでしょうか?
先達が遺した自国の文化、芸術ぐらい自国民で評価出来ないでどうするのか!?

他国の評価を窺う事は謙虚でも美徳でもない。自分の産まれた国ぐらい自分達で誇れないでどうしますか?それを傲慢だ!尊大だ!というのは、大きな間違いなのです。
今の日本を思う度、三島氏の遺した『憂国』の言葉が私の中で重みを増すのです。

三島文学が50年後、100年後には今よりももっと冷静で正当な更なる評価がされているのを信じて止みません。

偉人を知るには我々はまだ彼の死に近すぎるのだと思います。
5.0 「源氏以来の作品」
「源氏以来の作品」、そう川端康成が評した『豊饒の海』四部作の第一部。

きらびやかな意味でのその文章表現の美しさは近現代の文芸作品の中でも他を圧しており、
あるいは日本が文字という不可解なものを手にして以来、古今絶無ではあるまいか。
いづれにしろ日本文学を愛好する者なら一度は手にとってみなければ話にならない作品で、
この第一部は、未だ四部作全体の難解なテーマにあまり頭を煩わされなくても済むうちに読めるので、
安心して陶酔できる「わかりやすい」美しさで彩られている。

あらゆる意味での、三島の総決算である『豊穣の海』はまた、
多くの意味で日本文学の総決算でもあり、現代日本への大反逆でもある。

日本にはもう本物の日本文学と言うものが生まれないんだ、と言うようなことを晩年の彼はもらしているが、
奇しくも彼自身がその日本文学の終止符となってしまった感が否めないことは、
現代に生きる者として寂しいことで、読み重ねるごとに陶酔よりも失望を新たにすることが多くなる。

まったく、三島由紀夫はとんでもないものを置いていってしまった。

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