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真昼の花 (新潮文庫)

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真昼の花 (新潮文庫)の商品レビュー

3.0 永遠のモラトリアム
しょっぱなからジットリとした湿気と熱気にやられてしまう
角田さんの文章は読者をいきなりアジアへと連れ去る

たった一人の身内である兄を追って、見知らぬ土地へやって来た主人公
しだいにその目的を見失う中、無一文に近い状態になってしまい、
挙げ句、物乞いまですることに
それでも日本に返りたくないという主人公がどうしても理解できない
“若者の癒しえない孤独”を描いたというが、
孤独というよりも無軌道で野放図な生き方をしているようにしか思えず、
違和感を感じた

一見、自分探しの旅のようでもあるが、
主人公には帰る家があり、両親を亡くしてはいるものの食うに困る訳ではない
社会に適合できないのではなく、大人になることを拒んでいるだけの甘ったれた考えに
自分は拒絶反応を示してしまったのかもしれない

貧しいアジアの国にいなければ自分の生を実感できないほど、
主人公は幸福ボケしてしまっている
自分のしたいことを思いあぐねる間もなく
生活のために働かざるを得ない人々の多いこと…
そういう社会の厳しさを知れば、
自分探しをし続けられることの幸せさに主人公はきっと気づくだろう

角田さんの文章は無駄がなくて、
目の前に情景が浮かんでくるような描写力はさすが!
ただ、この主人公に共感を得る人がどれだけいるのかは疑問です…
4.0 人との繋がりを軽んじる生き方
この「真昼の花」の主人公は、今までの伝統的な日本女性でもなく、キャリア・ウーマンでもありません。地味な若い女性ですが、現代の表通りを歩いている女性でもなければ、男の後で支えている女性でもありません。そんな女性が、地に足をつけるでもなく、それでいて悲壮感もなく、ふわふわとした生活をしています。ですから、一人でふらっと東南アジアへ旅立ち、金がなくなって食うものにも困ったりします。
こうした生き方には、個人的にはとても賛同できませんが、こうした「ひとり」ということを主に置いた生き方があることも確かでしょう。人との繋がりを軽んじる生き方。これが現代の生き方なのでしょうか。
5.0 純文学的な角田作品
 基本的にエンターテイメント作品ではない。2中篇で一冊になっている。バックパッカーの女性の、無計画・無目的で衝動的な毎日を描く「真昼の花」。子供が自立してバラバラになった家族の、ちいさなすれ違いの日常を描いた「地上八階の海」。
 激情やドラマチックな展開やミステリーと呼ぶほどのことは何もない。そして濃厚に不安の霧がたちこめる。これでいいのだろうか、このままでいいのだろうか、と。
 答は提示されない。その救いの無さが純文学的だ。現代の日本人の姿を、ありのまま見事に描き出した2編。
3.0 悪くはない、のだけれど
この本は中篇が2つ収められている。表題作「真昼の花」はとある途上国、「地上八階の海」はよくある日本の平凡な街、を舞台にしていて、どちらもどこか所在無げな主人公の女性の考えや日常が中心に描かれる。舞台設定は随分と違うが、どちらも取り立てて大きな事件は起こらないし、一貫したテーマがあるわけでもない。ドラマ性が排除され、日常の風景や心の微妙な動きが淡々と描かれる点で、最近僕の読んだ現代作家である吉田修一や保坂和志の作品と共通性がある。角田光代も、装飾を排した簡潔な文章で、日常の風景を丹念に描いており、途上国での貧乏旅行で感じるどこか不安定な感じや、平凡に思える日常が少し歪んで見えてくる感覚をうまく捉えていると思う。

ただ不満もある。乾いた文章、空虚感。個人的には嫌いじゃないし、どちらかというと積極的に好きだ。けれど、そうした表現は今や無数にあり、そこに大きな差異は見出しにくい。もちろん、個別の作家をきちんと読み込めば、求めるテーマも、文体も大きく違うのだろうし、色々と新しい発見もあるだろう。だが、それを積極的に探していこうという気にはなかなかなれない。

良かったのは、嫌悪感がうまく描かれているところ。「真昼の花」で、主人公が日本企業の前で物乞いし、声をかけられた男性の家に誘われて行ったとき、いくら男と寝ても、貧乏旅行で金がつきても、どこか自分に同情し言い訳し、その自分とやらの安全性を担保しようとしている自身に急に嫌悪感を抱き、男を蹴りその部屋から飛び出す。「地上八階の海」では、付き合っていた男が、突然オレンジジュースをくれよと言い放ち、主人公の女性は戸惑う。この男は、冷蔵庫には当然オレンジジュースがあるものだと確信している。その女性は、そこで前提とされる強固な家庭像のようなものを見て、戸惑い、嫌悪を覚える。こうした描写には、どこかに安住することを願う精神性を生理的に嫌っている作者の志向が滲み出ていて魅かれるものがある。自己否定にどこか甘美なものを見てしまうへたなロマンチストより、こっちのほうがずっといいよな、と思う。

4.0 現代の抱える不安を表現
表題作と「地上八階の海」の2編が収められた作品で、単行本「地上八階の海」から改題されたものである。
両作品とも主人公は、自分のありかたに自信がもてず、不安と疑問を抱える若い女性であるが、いずれも誰かに助けを求めている姿にみえる。
実は、共通して救済者として求められているのは、主人公の兄なのだが、その兄ともすれ違ってしまい、焦りは増してしまう。
日常に飽和する空虚、孤独感は、夕暮れの橙色の空として象徴されている。
虚しいのは、友人の死に際、廃墟に近い無人の団地に、不覚にも非日常の高揚を覚えてしまうことだろう。

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