私にとっては小説でなくノンフィクション
私はこの作品をノンフィクションと思い込んで読み始め、カバーに記されている解説により、読み終えた後になって初めて、著者の従軍体験に基づく連作小説であると言うことを知ったのである。しかし、今でも私にとってはノンフィクションであり、どこが虚構に当たるのか、全くわからない。少なくともこの作品を小説とするなら、ジャーナリストの書いた記事でも小説に分類されてしまうものが多々存在することになると思う。部隊から外れ一人戦場を彷徨っていた著者が、林のへりに倒れ込んでいた時に米兵が現れる。米兵は著者に気付かないのだが、著者は銃の安全装置を外すも結局射たないのである。この「なぜ射たなかったか」についての省察に数ページ費やされていることが、唯一のノンフィクションらしからぬ箇所であろうか。
タイトルから察せられるように、書かれていることの大部分は俘虜収容所内のことである。そして「阿諛」と言う言葉が何度も出てくるが、これが日本人の集団秩序の維持に重要な役割を果たしていることもわかる。戦場と言う極限状況下、収容所内で新たな秩序が形成されていく過程、米兵との対比などを通して、日本人と言うものを見つめ直すことの出来る好著である。