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残りの雪 (新潮文庫)

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残りの雪 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 独自の美意識をもって描かれた華麗な絵巻物
立原正秋をはじめて読む人にもおすすめ。鎌倉や旅先の情景、季節、美術、食など、滅びつつある美しい日本の描写にまずは惹きこまれてしまう。そのなかで繰り広げられる男女の恋愛模様は、さながら華麗な絵巻物のよう。一方で失踪したヒロインの夫とその愛人たちの様子は、同じ不倫でありながらまったく彩りのない、通俗的な姿に描かれる。この2つの対照的な恋愛模様のコントラストにくわえて、老いてなお男女の性愛に捉われるヒロインの親たちの姿が品格を失わず描かれるのも見逃せない。とどまることのない人間の情念、性愛のゆくえが、作者が生涯貫きとおした独特の美意識のなかで昇華され、こころゆくまで立原正秋の世界を堪能できる。
3.0 人生と食物の哀しみ
 京都への旅行や箱根の宿の日帰り利用など不倫の遊び方のお手本になるような小説。実際、手本になってきたのかもしれない。越後湯沢の雪以外なにもない温泉に籠もった日々を絵巻物、と形容するのが感慨深いものがあった。不倫が多くなってしまう成人の恋愛を扱うと、どうしてもそういうものがふさわしくなる。「犬を連れた奥さん」もこおろぎの声だけがする無声映画にするのがふさわしく思えたこともあった。

 さて本筋とは違うのかもしれないがこの小説でもっとも感銘深かったのは中絶の手術を受けた主人公が寿司一折とケーキ3つとお茶100グラムを買って帰るところだ。なんとなくこの3品以外にふさわしいものはないほど似つかわしいし、これほど細かく指定されているというのは作者も供養などの意味をもたせているはずだ。これを買った帰り道の乾いた感じが伝わってくる。お腹が空いているので寿司はおいしかった、とされている。傷ついたことと疲れが伝わってくる。立原正秋についてはよく知らないのだが食通として知られた人のようだ。なるほどというところ。ほかに食べ物に薀蓄を傾けたシーンも多かったが、ここが一番よくできていると思う。しかし何よりその前に、大人同士なのだから避妊したらいいのにと思うのだが。昭和40年代末だったら現代と避妊知識方法にも差があるのだろうか?

 ところで主人公の相手は友だちの元カレという設定である。しかもその友だちを介して知り合っている。そして怒った友だちは悪者になっている。現代では主人公はこの点で特に女性からおそらく共感を得にくいと思う。昔は女同士の関係というものがこの程度に認識されていたという歴史資料としての意味すらあるが、これほど女性の心の動きをよく知っている人なのに、もう少し別な設定はなかったのだろうか。

5.0 立原氏の世界をさ迷い、理解できる歳になったことを感謝したい
もう10年にもなろうか、その頃つき合っていた「愛しい人」から、この
「立原正秋」を教えられた。勧められたのは『辻が花』だった。
探せどなかなか見つからない。それが近時、短編集の中で入手できた。

あの人が勧めるだけに、それは良い本だった。読後すぐに彼の本を探し
て手にしたのが、この『残りの雪』だった。これもまた素晴らしい。
文末の解説で、この本は昭和48年に日経新聞に連載され、好評を博した
ことを知った。不覚にも、このことは知らなかった。
無理もない、その頃は社会人になってまだ5年、28の青二才だった。

今や立原氏の世界をさ迷い、理解できる歳になったことを感謝したい。
いま同じ日経紙で、W氏の『愛の流刑地』が評判というが、この立原本
の前ではまったく勝負にならない。あのW氏とは品格が違う。

本書が持つ、①「奥行きの広がり」、②「構成の妙」(解説文も絶妙。
2組のペアに描き出される対極軸の妙味などは、読後この解説文を読め
ば分かろう)、そして③「賢い女はかくあるものか」といった驚きと同
調など…、実に学ぶものは多い。(なべて、賢い女は美しい)
「四季の移ろいを丹念に描く中にあって、決して移ろわない里子と紙屋
の信頼と情」に、場面においては、涙さえ落としてしまう。

読む過程で「長い人生のどこかで、こんな素敵な出会いにめぐり合いた
い」とまだまだ願いつつ、男女の仲は、「素敵であればある」ほど、そ
れはまた「厳しさを伴う」のだと、素直にうなずいてしまう。
そんな“本当の大人にしかわからない”、実に良い本である。
50代以上で、「自分は大人である」と思える方よ、読んでみてください。

4.0 美しい恋愛小説が読みたい時、オススメです。
幼い頃からの本好きは、やがて早熟な思春期に突入。立原作品の
「恋」に触れるたび、恋する人とはこのように美しきものかと、
己の身姿を鏡に映し冷静になるでもなく一人トキメイテいたのでした。
あれから数十年の歳月が過ぎ、この作品を読みふける休日、
日本とはこの様に美しき国であったかと思い巡らし旅立ちの

誘惑にかられるのです。まるで上質な日本画を描くようにつづられた
美しい作品ではないでしょうか。落ち着いて読むことの出来る
激しい恋愛物語です。

4.0 大人向けのお伽話
 工藤保之は妻里子と幼稚園に上がる前の男児を残して、愛人千枝と失踪した。里子にめぐり合った骨董に目が効く40代の会社社長、坂西浩平は「あなたは目について仕方がない人です」という。里子は「目につかないようになさればよろしいのではございませんか」と答える。…というように、物語ははじまる。多くの男性読者にとって、里子はいかにも愛してみたい女性、多くの女性読者にとって、坂西はいかにも愛されてみたい男性であろう。その意味で、これは大人向けのお伽話といえよう。坂西と里子の深まって行く愛と平行して、工藤と千枝の薄らいで行く愛も述べられる。愛の場面の描写は、先の二人において、自然の細やかな描写とないあわされて美しく、後の二人において、乾いて殺伐としている。異種の愛を描き分けるための作者の巧みな工夫であろう。しかし、そのように美しい表現が見え隠れすることと、全編があまりにも読みやすいことから、これを純文学と呼ぶべきか、通俗小説と呼ぶべきかと迷わされる。里子の父が「男も女も、その生涯を終えるまで、たがいに相手にたいする思いが熄むことはない」と考えるところがある。筋を興味深く追いながら、その「思い」のいろいろな形について考えさせられもする作品である。

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