目
人間にとって顔とは何か?見えない心の化身なのだろうか? 顔を失うことで心も失い、それらの喪失感を妻の愛で補充しようとする男を通じ、我々に生理的崩壊を訴えかける「他人の顔」。 自分以外の顔に依拠することで重層的な「自分」を造り上げ、心にまで仮面を被せることで、すべてが仮になってしまった男の心情を内側から抉り出す描写によって、結局は、男の「顔」を知っている我々の目には「仮の顔」の裏を読みとくので、裏が表に見える滑稽な悲劇になってしまう。常に裏と表が錯綜する本編を自分の目で確かめてはいかがでしょうか。
内省から妄想、そして破綻へ
仮面を作り上げるに至る工程とその試行錯誤の描写は非常に細かく、リアルに感じられる。試行錯誤で仮面が完成し、一人二役を演じきれるようになるように努力するあたりでは、ぐっと主人公にのめり込んでしまう。その分、最後のどんでん返しは衝撃的だ。 顔を失うことで自我を失ない、妄想的になったとはいえ、妻の手紙を読んだ後の行動は完全に破綻していると言える。
「顔」という一つのアイデンティティの崩壊により、優秀な人間が内省を重ねていくに従って、妄想にとらわれて破綻していく様は、日本的なエリート層のもろさを表しているようでもある。