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箱男 (新潮文庫)

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箱男 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 パロディとしてのアンチ・ロマン
 アンチ・ロマンがいくら頑張ったところで、作者→虚構→読者という構造は突き崩すことはできない。仮にこの構造を物語性と呼ぶならば、物語性において、アンチ・ロマンはそもそもの出発点から敗北している。
 
 書き手というバトンを、登場人物に渡し、さらにその受渡しを錯綜させたところで、バトンは誰にも渡らない。バトンは、常に作者の手の中にある。種は割れているのだ。小説という枠組の中では、作者は決して不在証明を得ることはできない。
 一方の読者という受動性も、また、突き崩すことはできない。「虚構」を完成したジグソー・パズルとして渡すのではなく、バラバラのピースとして渡したところで、読者が持ち得る能動性は、せいぜいのところ、文献学者のものだろう。「虚構」そのものに対しては、読者は、受動的であらざるを得ない。依然として「作者→虚構→読者という構造」は、無傷のままである。
 
 書き手が箱を被ってみせるのは、秀逸なパロディだ。見られる者-見る者(作者-読者)という関係が、その中で、露になる。見られる者(作者)は、箱を被ることによって、見る者(読者)となる。しかし、あくまでパロディなのだ。実際に、両者の立場が逆転する訳ではない。
 それではと、「虚構」を「現実」と等価なもの、もう一つの「現実」としてしまったらどうだろうか。それならば、作者も読者もその「現実」の中の存在となり、物語性は成り立たない。だが、「現実」は、そんなに甘くない。したたかである。もう一つの「現実」を持った者を、「現実」は、総合失調症と名付け、病院へ送り込む。安部はそんなことは百も承知さとばかり、最後に救急車のサイレンを鳴り響かせてみせる。
 
 この小説の、即物的で生理的な描写は、露骨である。描写が即物的で生理的であればある程、これは現実なのだと思わせようとする企みが露になるという意味で露骨である。まるで種明かしをしたがっているような手品なのだ。
 
 安部はこの小説で、アンチ・ロマンを徹底的にパロディにしてみせたのだ、と私は思う。『密会』以降は、書き手というバトンの登場人物へ受渡しは、文体の問題となる。「一人称」では即き過ぎ、「三人称」では客観的過ぎる文体上の問題を解決する手段となる。
3.0 面白い問題提起もあるが〜後半は支離滅裂
ダンボール箱を被って身一つで生活する事で、自ら社会から離脱し、「箱男」として生きる男を主人公にして、様々な問題を提起する実験作。

男を覆う「箱」は男に匿名性を与え、男は自分が持つ視姦癖を自由に発揮できるようになる。ダンボール箱に閉じ篭る事で、逆に自由性を獲得するという逆説である。「箱男」は複数人存在するが、世間はそれを認知していないか気付いていない。「人は見たいものだけが見える」と言う皮肉でもある。この作品では"視点"が重要視され、作者が町の風景を撮った写真が数枚挿入されている程である。本作だけでなく、作者が社会を見る眼は細かく、鋭いと思う。主人公と、看護婦、贋箱男(=医者)との間で、覗く側と覗かれる側の立場が何度も逆転する心理模様は面白い。そして、医者が実は軍医の代わりをしている贋医者だった、と言う辺りから読む側には虚実が曖昧になる。冒頭で、敢えて「...今のところ、この記録を書いているのは僕である」と書いてあるが、小説の記述者とは何かと言う問題も提起している。「この記録を書いているのは僕である」と書いているのは誰なのか ? 主人公に成り済ました別人かもしれないし、作品全体が主人公の妄想かもしれない。「今のところ」と言うのがクセものである。

しかし、後半は殆ど支離滅裂の展開で、これを理解せよと言うのは無理がある。とても計算された内容とは思えない。こうした作品に明快な解答を求めるのはヤボだが、限度がある。前半で提起した問題を後半で膨らませるとか、もう少し小説の体を成した形にした方が良かったと思う。
5.0 次世代が見えていた安部公房。
この作品の評価は大きく二分されている。
否定と肯定に大きな振れ幅を描くのだ。
それはストーリーの迷走と、箱男と言う存在のディティールの完成。
箱男と言う現代の世相を反映した存在。
箱男の生態について深く洞察し、ある意味での社会へのアンチテーゼとして確立させ読者を作品中に引きずり込んでいく手法は安部氏の真骨頂だ。
まさかこれほどの小説家を知らなかったとは…。
砂の女は正真正銘の名作だが、これはまた違った形で小説のあり方を早期に提示した現代の若者と過去である安部氏を結ぶ橋頭堡的作品であろう。
少なくとも私は彼の作品を高く評価したい。
5.0 結局一番伝えたいのは・・・・・
人間を描写する上で最高の部類じゃないかな、この小説はさ。
箱男という見られることを拒否した人間を軸に、見ることと見られることとの関係性を
安部公房一流の観察力と内面から滲み出す知性の輝きをもって表現してるのが、この作品。
確かに、この作品を傑作とみなせいという意見もあると思う。ラストが、あまりにも迷路に
なっているからだ。だが考え抜いて突き詰めれば人間の思考は迷路みたいなものなんだから
結局、当然の帰結というわけだ。
そして不思議な事に、なぜか時代が経つにつれて、この作品の伝えたいことが明確になって
くるような気がしてるのは僕だけじゃないと思うんだがなー。時代が追いついて来たというか
なんとゆうかさー。
いろんな解釈ができる話だが、僕が思うに一番は「開き直り」だよな。良くも悪くも。
四角四面の箱ってものを伸縮自在なものに変えてるわけよ。つまる所、何男でもいいわけさ。
箱じゃなくてもね。開き直りならさ。
そして開き直って初めて認識する事っては多々あるもんでさ。つまり認識者にはなれる。
ただ認識することと達観することはまた違って、開き直れば、それまで繋いでものを切る
わけだから達観には永遠に届かない。人間って皮肉な動物だと、これを読むたび思うよ。
3.0 罪作りな作品
本作の最大の美点であり欠点は、このタイトルだろう。一体何人の中高生が、この素晴らしいタイトルに惹かれてこの本を手にしたのだろうか。そして何人が、この訳の分からなさに跳ね返されて、その他の傑作に出会う機会を逃したのだろうか。想像するだけで残念な気分になる。
もしこれを読んでいるあなたが、安部公房に興味があるけど何から読んだらいいか分からなくて困っているなら、悪い事は言わない、本作はおよしなさい。まずは「鉛の卵」辺りの中期の短編か、「砂の女」にすべし。その次に戦慄の傑作「第四間氷期」。
その後は、全作読みたくてたまらなくなるだろう。そうなってから手に取るべき、中級者向けの作品。

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