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個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)

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個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)の解説

27歳の予備校講師鳥(バード)は、結婚して間もなく子供が生まれようとしているのにいまだアフリカへの冒険旅行を夢見ているようなモラトリアム青年である。そこに、とうとう子供が生まれた、それも頭に異常のある障害児だという知らせを受けて、バードは今後いっさいの行動の自由が奪われたと絶望し、アルコールに、そして女友だち火見子との性交渉に逃避する日々を送ることになる。その間に子供が衰弱死して責任から解放され、火見子と連れ立ってアフリカに出発することができればというのがバードの期待だったが、その土壇場にきて、彼はこうした態度が自己欺瞞であり、自分の人生を台無しにしてしまうと自覚し、赤ん坊を引き受ける決断をする。障害を軽減する手術が成功して退院できることになった子供と妻を連れたバードは、確かに自分が変わったこと、大人になったことを感じる。
戦後新世代の旗手として華々しく登場した大江健三郎は、初期作品においてまず、閉塞した社会状況に抵抗し、そこから脱出しようとする若者たちを描いたが、1964年に書き下ろしたこの長編(新潮文学賞受賞)において、状況から逃げるのではなく、積極的に引き受けるようとする成熟、自立した青年像を提示し、中期創作への道を踏み出した。現在作曲家として知られる長男光の誕生をきっかけとして生まれたこの作品は、その後の大江と光の親子関係の発展をたどっていく一連の物語の出発点でもある。(大久保喬樹)

個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)の商品レビュー

4.0 240ページと12ページ
 バードは障害を持って生まれてきたわが子の衰弱死を願います。勤めていた予備校では失態を演じてクビになり、火見子のアパートに入り浸るようになります。最初から240ページまでの人間的に弱いバードの気持ちはなんとなく理解できたつもりでした。
 ところが240ページから252ページまでのたったの12ページで、バードはまるで別人のように人間的に成長してしまいます。章が変わっただけでいったいどうなってしまったのでしょう。きっかけすらない突発的な人格に変化に戸惑ってしまいました。
5.0 大江健三郎を読むのは初めてですが、
大江健三郎の長編小説を読むのはこれが初めてであり、
色々と新鮮な驚きを感じながら読んだ。
一般によく言われているように、技巧を凝らした文章で、やや読みにくいのは確か。
翻訳っぽい文体やストレートな性描写は、その後の村上春樹あたりに影響を与えているかも知れない。
障害を持って生れた子供から逃げ出すことばかり考える主人公に共感出来ないという意見もある様だが、
男というものは生まれたばかりの子供に対しては意外と実感が持てない物であり、
主人公のこの様な態度は非常に良く理解出来る。
主人公の渾名である「バード」とは、「チキン」つまり臆病者を暗示しているのではないかと私は思うのだが、どうだろうか?
最後の場面で、義父から「きみにはもう、バードという渾名は似合わない」
と言われる所は「きみはもう、逃げてばかりいる臆病者ではない」と解釈できる。
火見子が語る「多元的な宇宙」は、とても興味深い世界観であり、
また物語の中でも伏線としてうまく活かされている。
はじめて大江健三郎を読もうと考えている人にお薦めの一冊。
5.0 自己欺瞞から「忍耐」への、濃密な物語
主人公の鳥(バード。あだ名)が、障害を持って生まれた赤ん坊から、狡猾に、自己欺瞞を押し隠して、逃げようとし、最終的には、「欺瞞なしの方法は、自分の手で直接に縊り殺すか、あるいはかれをひきうけて育ててゆくか(p.247)」しかないことを認め、「ぼくが逃げまわりつづける男であることを止めるために」受け入れることを選択するに至る物語。

その間の鳥(バード)とその周りの人物のできごと、感情、行動が、ものすごく濃厚なんです。

障害を持つ赤ん坊、それを取り巻く人々、二日酔状態で予備校で講義して嘔吐、ア○ルセックス、外交官の出奔、過去の縊死、これから起こすかもしれない、人の手を借りた殺人。。。
それぞれが、季節が夏なこともあってか、非常に濃密な感じでかかれます。げっぷしそうな感じ。

人物、感情を表す比喩に動物を多用してたりするあたりも、なんだか得体の知れなさを加速してる気がしました。
たとえば、「病んだイタチのように狡猾」「恐怖のメガネザル」「個人的な不幸のサナギ」「こそこそと穴ぼこへ逃げたがっているドブ鼠」とか、「眠りのイソギンチャクの触手」、「棘だらけで赤黒い欲望と不安のウニ」だったり。

赤ん坊を育てていくことを決意した鳥(バード)に対して情人である火見子が言うはなむけのせりふ
「あなたはいろいろなことを忍耐しなければならなくなるわ」
が若い僕には重く印象的でした。
5.0 買いです。
初期の作品が持つ猥雑さが、障害を持った長男の誕生という出来事を経て、これ以降長くこだわっていく親子の在り方を通じてしか世間や世界と関わっていくことができなくなっていくという作者自身の在り方に収斂されていく様を記録した作品です。この作者の場合、他の作品から切り離して読んでこそ浮かび上がってくるものが多い(ある時期までは)ので、必要以上になにかと関連付けると読み誤りの原因になるような気がします。
5.0 大江をさらに読んでみたいきっかけとなった作品
大江の小説は難解である。しかし、少しずつでも大江と格闘する中で、彼の作品の持つ意味が理解できてきたような気がする。大江に関心を持ち始めて、10年以上たってから、手にしたこの作品。読み終えた後
確実に、自分の中の魂が再び生きる方向のベクトルへと向かっていることに気がついた。個人的体験以降の小説の中で大江自身の想像力による2つの実験が試みられる。1つは障害を持った子を引き受ける事を放棄してしまった場合、怪物アグイーがその代表作といえよう。また、障害を持った子どもを引き受けて行くことを決意していく場合、洪水は我が魂に及びなどのその代表作であろう。大江を知るためには、この個人的体験は絶好の入門書なのである。私は10年かかってこの作品と出会ったが、大江に初めて入門する人はこの「個人的体験」から読むことをおすすめする。

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