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カリスマ―中内功とダイエーの「戦後」〈下〉 (新潮文庫)

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カリスマ―中内功とダイエーの「戦後」〈下〉 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 ダイエー転落の軌跡
 下巻は、兄弟との骨肉の争いを経たあと、中内氏自身の著書「わが安売り哲学」についての分析の章から始まる。上巻が戦争体験に始まり、高度経済成長の波に乗りダイエーが日の出の勢いで拡大していくまでの過程を主に扱っていたのに対し、下巻では名の売れた企業として地歩を固めた後のダイエーグループの成り行きについて詳しく述べられている。
 読み進めていくと、上巻で抱いたのとは全く違う質の印象を覚える。rise and fallでいうところのfall、ほかのレビュアーさんにもあったが平家物語的な滅びの様相が、ひとつひとつ証言や数値と共に読むものに示される。地位を固めた後の黒い交際の数々(許永中や笹川良一まで!)、ペーパーカンパニー・ファミリーカンパニーを駆使した資産蓄財、同業種・他業種へのM&A、自己の権力維持のための人事、企業組織の状態を悪化させる数限りない方策が幾らでも読み取れる。上巻で挙げられていた革新的な要素、魅力的な要素が下巻ではことごとく悪いほう、悪いほうに作用していくさまは、なんとも重い気持ちにさせてくれる。しかし、非常に読み応えがあり、上手く言えないが読み物として読後の充実感がある。

 そんな浮沈の様子が、戦中・戦後の時流の変化にもっとも敏感に反応してきた結果であることを、著者ははっきりと伝えてくれる。その視点から見れば、今こうしてここに書き込んでいる場を主催している企業の成功などによって流通業・小売業自体の定義自体が変化してしまっているのが現在の時流で、この著書でキーのひとつになっている不動産業も上場企業の相次ぐ倒産や業績の悪化に見舞われている。
 この上巻・下巻を読んで、自分がいる今に至る戦後の道のりの一つの太い線をたどることができたように思う。何よりも幾多の風景が脳裏に焼きついた。著者の作品をもっと読んでみたくなった。
5.0 時代から自由になれたわけではなかった
 本作に対する全体的な感想は(上巻)のレビューに書いた。

 (下巻)の464ページで佐野は こう書いている。

 「40年体制を批判しながら その戦後的発展形態のバブルの美酒を、中内も また飲み干した一人だった。異端の経営者といわれる中内も 『戦後』の大枠から自由になれたわけではなかった」

 本作を通じて 佐野は 中内という傑出した経営者の個人史から日本の戦後史を浮かび上がらせるというテーマを追っているというのが僕の理解である点は(上巻)のレヴューに書いた通りだが 上記一文こそが 佐野が 中内を「総活」した一文だと僕は読んだ。

 中内の 決して短くない人生が「戦争」であった点は 本作を通じて描かれている。「戦い」には相手が必要だ。「価格破壊」をはじめたときには 「メーカー支配の流通業界という時代」が 中内の敵であり その戦いが 彼の鮮やかな登場となった。
 しかし 時を経て 変革者は体制側に廻り 気がつくと その時代に絡めとられ「正しい敵の設定」が出来なくなり 最後は自家中毒のようにして倒れていった中内の姿を 佐野は 上記のように表現している。僕には そう感じられた。
5.0 棺を覆う蓋さえ見つからない
全盛期のダイエーは仕入れから物流・警備・サービス・宝石から呉服・ファミレス・ハンバーガー屋からレコード屋まで全国展開できる無敵の帝国でした。
しかしながら最強の帝国は「最強」となったときから崩壊の第一歩が始まっていたのでした。
大きすぎて融通が利かず、地場のスーパーの小技に負け、少し高くても本物を求める時代なのに安かろう悪かろうのまま(そう安くもなかったし)本業の利益を副業で無駄遣いしていました。流通王となった中内氏は孤独な王様でした。高度成長という時代に彗星のように忽然と現れ、日本の流通業を根本から打ち砕き、大量消費時代としたものの、バブル崩壊の低成長時代に、役目を終えたようにさびしく去っていった中内氏。
「勝ち組」「負け組」「善」「悪」といった単純な物差しでは測りようもなく、著者の言葉を借りれば棺を覆って評価が決まるはずが棺を覆う蓋さえ見つからない人でした。もうこんな経営者は二度と現れないような気がします。
そういった中内氏のさまざまな側面まで筆を緩めず記した資料的価値の高い作品でもあります。文庫版は迷走をきわめ失敗に終わった自主再建の様子が最終章として加筆されています。

同じ著者の続編的性格の「戦後戦記」もおすすめです。
5.0 ダーエーの成長と衰退史を 佐野氏が鋭く分析
 大手スーパー「ダイエー」を一代で築いた 中内氏の幼少期からバブル崩壊後の不況また社長交代時の株主総会まで、色々な取材をもとにまとめたノンフィクション。

 ダイエー成長していく中で、中内氏のまわりには非常に力のある人物がいたことが分かる。。また、ダイエーが落ちていった背景を佐野氏が鋭く考察している。考えさせるられることの多かった1冊です。
5.0 中内功をそこまで駆り立てたものは何だったのか…(下巻)
佐野眞一は経済学者でも評論家でもない。その人物を突き動かしたものは何かという、合理的には説明がつかない人間の情念みたいなものを炙り出そうとする作家である。

だから、この作品の主題はあくまでも中内功である。ところが、彼とダイエーは一心同体であるため、結果的に彼を描くことが同時にダイエーの歴史を描くことになっているのである。更に、ダイエーの流通革命とその周辺を描き出すことが戦後流通史の鳥瞰図になっている。そう考えると人間として中内功はやはり凄い人間である。

著者は中内のすべての原点はルソン島で生死境をさまよった戦争体験にあると確信している。言ってみれば「負」の力であろう。その「負」の力が大き過ぎるが故に、ダイエーは膨張し続けるしかなかったのである。中内功がいなければダイエーの成功はないはずである。そして、中内功がいなくならなかったからダイエーは破綻したのだろう。

文庫本の下巻には、単行本には書かれていなかった、中内が退任し新体制に移行する前後のダイエーの動きが加筆されている。大きすぎて潰せないと言われたダイエーも‘04年は産業再生機構入りし名実ともに破綻した。これにより戦後最大の成功経営者は戦後最大の経営失敗者の烙印を押されてしまったのである。そして全てを失った中内も’05年に死去する。その間の動きは著者が編著した「戦後戦記(‘06年6月発売)」に記されているのだが、ダイエーを追われた後の中内の姿は無残ともいえる寂しいものであった。

彼は経営を退く際に「40年間、何も楽しいことはなかった」と発言して物議をかもした。やはり、彼を突き動かしていたものは、著者の確信するとおり戦争体験だったのだろうか。質量ともに圧倒的であり佐野眞一らしい作品であり傑作である。

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