やわらかな文章の中に幸せな宝石
もともと、私は絵本の中の世界の感じがすこし好きなのだけど、その感覚がこの小説にはきちんと含まれている。私たちは日常に生きていて、仕事をしたり電車に乗ったりたまにはホテルでご飯を食べたりするのだけど、ふっとした瞬間や切欠で昔の記憶がよみがえって来ることがある。それは身近な人が大切にしていた宝箱のような、密やかな幸せに繋がる記憶をもっていて、日常から少しちがった世界に連れて行ってくれる。でも、それは現れたときと同じようにまた、ふっとどこかに過ぎていく。
たまにそんな世界に戻りたくなったら、開いてみてもいいだろう。
ブンガク少女の絵本紀行
1編6ページくらいで、江國香織が好きな絵本を紹介する本。絵本の実物写真もカラーでみられるから、彼女の言いたいことが少し自分でも確認できる。自分の感性に合う本も、何故彼女がそんなにほめるのかわからない本もある。ともあれ、絵本という形式に愛着や興味のある人には、少なくとも役立つ本である。私も娘が小さいときに、毎晩絵本を読み聞かせていたから、多少の知識がある。彼女とはずいぶん好みが違うところもあるけれど、この本で改めて、ずいぶん久しぶりに絵本売り場にたたずむことになった。文学と実用書のあいだ、である。そのあとに対談2編。これは、気に入らない。とりわけ五味太郎との対談。読んで納得できない。娘が小さいとき、五味太郎の本を何度となく手に取ったが、結局ほとんど買わなかったし、買っても娘は見向きもしなかった。彼の絵本が娘の気持ちを捉えなかった理由が、この対談で何となく分かるような気がする。おとなの勝手な思い込みで描いている部分が大きいのではないか、と思う。江國香織に対するえらそうな態度も気に入らない。彼女がちょっと気の毒。
絵本の紹介本はほかにもあるが、彼女の文章はさすがに流麗である。しかし彼女の文章からは、わがままで頭のいい文学少女、といった「におい」がぷんぷんとただよっていて、私などにはちょっと容認しがたい表現もある。いつまでも少女くささがぬけない、というのは長所でもあろうけれど、どうも、カマトトではないか、と疑ってしまう。彼女の文章を読むと、いつも、そういう邪推をするのである。きっと相性の問題だろう。