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狭き門 (新潮文庫)

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狭き門 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 美しく、悲しい話
 一体ヨーロッパでは宗教が私生活をどれほど制限するのかは今でもよく知らないがとにかく感動した。何の気もなしに文学史の年表に乗っていたという理由だけでこの本を読み始めた自分だが、今ではこういう本に出会えた機会があったことを感謝している。
 実る直前までに達した恋が女性側の宗教的信念によって阻まれ、結局女性の死によって悲劇の結末を迎える。あらすじに目を通すといかにも説教臭い様な、メロドラマ臭い様な何となく敬遠したくなる印象を受ける。だが、筋の露骨さに比べて本文は読んでいてとても心地よい。著者以外にも訳者がうまいという事もあるかも知れないが、それほど余計な修飾のない文章は透き通っており、かなり好感が持てる。さすがに自分自身の体験に基づいているだけあってメロドラマ系の小説に良くあるような演出のしすぎで現実と乖離してしまうような失敗もなく、先述の文章とが相まって空中分解してしまわずにしっかり一冊の物語として完全に完結しているように思う。日本文学に似た細やかな心情描写や登場人物達の人間くささも魅力があった。
 ノーベル賞作家ジッドの代表作。読んで損はしないとおもう。読み終えて心からすがすがしい気分になれるそんな一冊だろうか。
4.0 縄も鞭も蝋燭も、そして濡れ場さえないSM小説
最初に断っておくが「アリサが読まれる事拒んだ日記の部分」をどう「読む」かがこの小説のポイントであり、
自由に裏話を想像する事ができる、即ち読者自身の人生観がジャッジされる事に気をつけるべきである(下文参照)。

十代で読んだ時は全く違う印象があったのだが、今は良質のSM小説として本書を人生の半ばを過ぎた人に薦める。
淫蕩な母を持った事がトラウマになっているアリサは形而上の美しさを追求する少女であった。
知識と教養はあるが(若さ故か?)社会常識と他人の気持ちを読む力のないジェロームはそんなアリサの「聖」なる部分を崇拝し敬愛する事で彼女が地上に降りる事を許さない。
俗な妹とジェロームを結婚させる事で彼に「生」を与えて自身も気楽に生きたかった(?)アリサを、無自覚なるがゆえにサディスティックな愛が緊縛する。
ジェロームの理想であろうとせんがために「狭き門」への険しい道程に歩まざるを得なくなり、次第にその苦行に法悦を感じ遂には死に至るアリサ。
自分が追い込んでいた事を死んだ彼女の日記で悟ったはずなのに、反省よりは「瓶詰め」になったアリサを愛でるかの様なジェローム。
おんどりゃ難しい事言うとるが、正味のとこ只の変態ちゃうんか?と横山やすし師匠よろしく突っ込みを入れたくなる事必至である(笑)。
愚直な失敗の多い生き方をしている人は、突っ込みを入れる事で不思議な癒しを感じるであろう。

また、作者自身の結婚生活についての知識を事前に入れておくと2倍楽む事ができる。
5.0 アリサとジェローム、二人の苦悩
アリサの理想とする愛の形とは?
確かに彼女はジェロームを愛したのであろう。
しかし、その愛の形はジェロームにとって苦悩を深めるだけだった。
何かを超越したようなアリサの愛は、我々読者に理解できる類のものだろうか。
そんなアリサに終始混乱させられ、苦しめられるジェローム。

終盤、アリサの日記に記された以下の言葉が強く印象に残った。

「《自ら進んで引かれるままになっているときは、人は束縛を感じません。
 しかし、それにあらがい、遠ざかろうとするとき、はじめて激しい苦しみを感じます》
 この言葉は、いかにも直截にわたしの胸をついたので……」

「主よ……」と言い続ける終盤の日記の中、このくだりでは神をさておき、
アリサの素直な心情が見えたようで、私にとって何となく救いとなった気がする。
4.0 紫水晶の十字架
―「ああ、昔のことを思い返すのはよしましょうよ」と、彼女はささやくように言った。
 「もうページはめくられてしまったんですわ」(本文より)


自己犠牲と愛、宗教、ことにキリスト教について考える時、避けては通れない話題であるが、なかなかキリスト教的精神が浸透していない日本ではわかりにくいところもある。

人は、多くが自分の幸せを追求するし、そのことに疑問を抱きもしない。
そこで疑問を感じ、さらには自分の幸福よりも大事なものを探そうとするアリサは、純粋で、見てみぬふりをできない不器用な人だったのだろうと思う。

確かに、自分の幸せよりも大事なものは、世の中にはあるだろう。
しかし、それでは彼女が目指したものは結局なんだったのだろうか。
自分の幸せよりも、人の幸福に献身する、いわゆるマザー・テレサ的な発想ともアリサは違う。
彼女が求めたのは、結局は自分の理想であって、結局はとてつもなく利己的だったように思える。
誰も悪くないのに、誰もが泣いている。こんな状況は、見ていてつらい。
彼女の「聖らかさ」、潔癖さの象徴である紫水晶の十字架は、そんな人の苦しみに対して、沈黙を守るばかりである。

最後に、もっとも印象的で、アリサの心の内をもっとも表現していると思った一文を。
「主よ、ジェロームとわたくしと二人で、たがちに助け合いながら、二人ともあなたさまのほうへ近づいていくことができますように。
 ・・・ところがだめなのです。主よ、あなたが示したもうその路は狭いのです―――二人ならんでは通れないほど狭いのです」
5.0 最高の恋愛小説
人によって本の読み方は様々だが、僕としては最高の恋愛小説なのではないかと思っている。

救われたいがこの世では救われぬという思いから、恋人との愛を成就することのできずに死んでしまう、ヒロイン。

そして、そんな彼女を失ってしまった主人公の喪失感。

聖書を引用している部分があるが、それがすべてを表しているように思う。

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