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シーシュポスの神話 (新潮文庫)

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シーシュポスの神話 (新潮文庫)の商品レビュー

5.0 生き方を変える本
カミュ 24歳の時の著作です。
私はこの本を17歳の時に読みました。人生観が激変し、30年以上たった今も揺さぶられっぱなしです。

神々がシーシュポスに与えた罰は、大きな岩を山頂まで押し上げること。岩は、山の反対側に転がり落ちていき、シーシュポスは再び山を下りて岩を押し上げる。これを永遠に続けることです。
ギリシャ神話ですが、当時から人間の価値観が「達成」にあったことがわかります。永遠に「達成」することのない苦行こそが「罰」であるという考え方は良くわかります。

反面、人間は寿命があり、いずれは死すべき存在です。死とともにすべてが終わるのであれば、そもそも達成という言葉は概念として極めて限定的にしか成立しません。ほとんどの宗教は、生きている間の善行が死後に報われることを説いていますが、これは法的整備が未成熟であった時代の社会の安全規範を宗教的倫理感に求めていると同時に、どこかで「努力 -> 達成 -> 報い」という因果律の存在を仮定せざるを得なかったことを意味しています。

カミュは、そもそも「達成」を否定しています。確たる理由もなく生まれてきて自分の運命を決定する力を持たない人間存在を、不条理と見なす以上、人間界の因果律は本来の人間存在の尊厳に見合うものではないということです。

これは敷衍すれば、「達成」(結果)よりも過程、プロセス、「あり方」に重きを置く生き方です。

ドイツの神学者である、マルティン・ルターは、「明日、世界が滅びようとも、私は今日、リンゴの木を植える」と言いました。この本を通じてカミュが言いたかったのは、まさにこのことでしょう。予想される結果がどうであろうと、将来報われるかどうかとは関係なく、人間は正しいと思ったことを誠実に行う生き方しかできないのです。カミュは、その生き方自体を結果とは関係なく「よし」と肯定しています。

ここで、カミュvs.サルトル論争、「革命か反抗か」につながります。自覚的に社会を変革しようとした(できる範囲で人間界の因果律を是正しようとした)サルトルから見ると、あくまで個人の尊厳に価値を置くカミュは「近代的市民」足り得ないと判断されたわけですが、そもそも視点が違う議論です。サルトルの提示した近代的市民像は時代の要請に合致しており、まぎれもなく「正しい」ビジョンではありますが、状況に左右されない、人としてのあるべき姿という意味ではカミュの提示したビジョンははるかに普遍的です。

著作としては硬く、独善もあり、極めて未成熟です。哲学としての完成度は語るべくもなく、実存主義の文脈で語られようとも、カミュはあくまでも芸術家であったことがわかります。

薄いくせに難解な本ですが、人生を変えるパワーをこれほど持った本はほかに知りません。
5.0 カミュのニヒリズムとヒューマニズム
 カミュが自らの「不条理の哲学」を語った哲学書。彼の「不条理」とは、世界との断絶と世界への一体化の欲求の二律背反を抱え込んだ人間の状態を言う。この矛盾を結局は世界への一体化によって最終解決しようとするキルケゴールやハイデガーのような狭義の実存主義者をカミュは批判し、二律背反状態を抱えたまま活発に動き続ける永劫回帰(ニーチェ)の運動を肯定する。この理屈自体はそれ程難しくなく、寧ろ明快で分かりやすい。

 自らの生を「永遠」「世界」との想像的同一化に奉げるのではなく、不条理な世界に対してひたすら闘争と変化を繰り返し、まるで複数の人生を生き抜くような存在。もちろん、そのような存在は死んでしまったらそれまでなので、そのように生きた結果、暗鬱で非業な死を迎えることは寧ろ賞賛されさえする。(そもそもカミュに取って、全ての死は犬死にである。)

 ただ、ここで、カミュは「死刑当日の死刑囚ほど自由な存在はない」といったレトリックを使いながら、世界の圧倒の前に生命自体が消滅しかかっているような絶望的存在を非常に肯定的に位置付ける。ここの解釈が大変難しい。死に至るまで世界との闘争を徹底して行い、その運動性の極まりを向かえる死の瞬間に光り輝く―。訳者が解説してるように、カミュの自殺論はこのようにロマンチックな読み方をするのが一般的だ。そして、若きカミュの興奮しきったこの文章を読む限り多分それは正しい。

 が、僕は更に次のような仮説を立てている。このように逆説的に肯定しないと、死刑囚(=それは我々の喩えでもある)の生は浮かばれないのではないか。ニーチェ的ニヒリズムとヒューマニズムは一見矛盾しそうだが、実は決して矛盾しない。僕は同じようなことをカミュの非合理=不条理の思想にも感じている。
4.0 生のたくましさ。
カミュは天才であると同時に、いわゆる苦労人でもあります。

アルジェリアで生まれ、貧困の中で育ちます。彼をノーベル賞作家にまでにしたのは、その知性まさにそのものだと言えるのではないでしょうか。

そういう彼のバックボーンを思い出しながら、短編エッセーである表題作「シーシュポスの神話」を読むと、彼の生と知の強靭さにため息が出ます。

シーシュポスが神から課せられた、岩を山越え山越え運ぶというタスク、それは基本的に「平凡」で苦しみに満ちた「日常」の「不条理」を表していますが、そのタスクに喜びを覚えるというモチベーションは読者を勇気づけること間違いなしです。
5.0 セインカミュではなくて
セインカミュの大叔父にあたると言った方が、現代っ子には分かりやすいかもしれない。
「異邦人」の次によんだのが、シーシュポスの神話だ。
フランス文学では、サルトルよりはカミュの方が好きでした。
不条理の哲学と言われるが、不条理が分かったら不条理でないかもしれない。

5.0 “異邦人”より“ペスト”をよりよく理解できる本。短編集ではありません。
サルトルをはじめとして、多くの書評はこの本を“異邦人”の哲学的解説書としているようですが、確かに、”異邦人”の理解の助けにはなりますが、この本で書かれていることを、よりはっきり体現しているのは、後年の“ペスト”の主人公の医師であると思われました。私は、“ペスト”を読まれてから、この本を読むことを勧めます。それからならば、内容の理解には苦労せずに、引用される哲学者や本の数々も、それらの推薦書(入門書、解説書)として、この本は役立ち、ひいては、今後の読書の手引きになると思われます。ドストエフスキーの“悪霊”を引用して、“イエスは死んでみたら、自分が天国に入ってはいないということに気がついた、そしてイエスは、自分の受難がむだだったと悟った、イエスはもっとも不条理な在り方を体現した人間なのだから、完全人である”と言っている部分など、フレッシュな発想を要求されて、刺激的です。“希望”というものには否定的で救いのない理論と思われる人もいるかもしれませんが、“人間の心には、自分を圧しつぶすものだけを運命と呼ぼうとする困った傾向がある。だが、幸福もまた、避けようもないものである以上は、これはこれでやはり理性の手には負えぬものなのだ。”といった、まさに希望に満ちたような表現があり、カミュという人物の“会えばかならず思わず手を握りしめたくなるような人間だった”という人柄を信じるに足る内容です。最後に、“わずか8ページの評論に全世界が感動した。”と本の帯に宣伝されてますが、誤解を呼ぶ表現だと思います。短編集ではありません。シーシュポスの神話は8頁の一章ですが、その前の200ページを読まないと、この8頁は理解できません。

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