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著者はあるトーク番組にゲスト出演した際、現代美術家のマルセル・デュシャンに倣って「自分を繰り返さない」、つまり、いつまでもベテランの領域には陥らないようにしたい、というようなことを語っていました。 確かに著者のこれまでの活動は非常に多岐に渡り、様々なジャンルにまたがった活躍ぶりは、他に例を見ないまったく独自なものだと思います。その意味で、「聞き書きルポルタージュ」という内容の本書は、また一つ新機軸を打ち出したと言えるでしょう。 著者の生活拠点が浅草に移ったことが発端になったとはいえ、興味の対象を次々に変化させ、常に新たな視点を取り込もうとするマルチな才能と、一生を賭けて一つの仕事を追求し、己のワザを磨き続ける職人との接点は果たして…。 取り上げられるのは、扇子職人、江戸文字の書家、手ぬぐい職人、効果音製作者、原型師、京小間物店主、テーラー店主、かりんとう職人、パイプ職人、鰻屋、テレビのスイッチャー、理髪師の12人。 著者は会話の中で、長い伝統を背負いながらも下町職人ならではの口調で語られる知恵と心意気に「すげえ」と感嘆し、普段は照れ屋な仕事師が謙遜しながら静かに語る神業的な技術とストイックな姿勢に「うわあ」と圧倒されっぱなしと言えるかもしれません。 しかし、著者らしい薀蓄を随所に絡めながら、興味本位な覗き見取材に終わることなく、モノづくりに共通する数々の奥義を分かりやすく開陳してくれたと言えるのではないでしょうか。特に「頭の中にあるイメージを正確に具現化することも確かに凄いことなのだけれど、作られている物と作り手がインタラクティブにプランを変容させていくことの方がよほどスリリングで創造的なのだ」というクリエイティビティの精髄には、著者がテレビで見せるアドリブを重視した臨機応変なツッコミ芸を思い浮かべました。 そういえば、古典と前衛が実は表裏の関係にあることも、思い起こしました。