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反音楽史

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反音楽史の商品レビュー

3.0 突っ込みどころが多い
既に他のレビュアーの方々の指摘にもありますが、痛快さを感じさせると同時にかなり突っ込みどころの多い本です。

著者はドイツ人によって形成された音楽史・音楽美学の偏向ぶりを暴こうとするわけですが、その主張は確かに一理も二理もあり、むしろ現在の音楽学者や、ある程度音楽史を丁寧に勉強した人なら常識と思われることです。中学で音楽室に並ぶ作曲家の肖像画程度にしかクラシックを知らない人には結構刺激的だと思います。

問題は第3章に入ってからで、「音楽に高級も低級もない」とするスタンスの著者は、音楽の絶対的な崇高さを規定するベートーヴェン以降のドイツロマン派の作曲者、批評家を徹底的に糾弾するわけですが、ベートーヴェンの曲を「馬の耳に念仏」とまでこきおろし、聞いていて退屈とののしるその発言は、そもそもの著者自身の立ち位置と大きく矛盾しているように見えます。著者のベートーヴェン批判の文章は、ただただベートーヴェンの音楽が(著者にとって)つまらないものだと断ずるだけのものになっており、つまらないものにもかかわらず世間から崇拝されていることを疑問視しているわけですが、果たして「ベートーヴェンがつまらない」、ということを客観的論証とともに実証できているのか?

このように、この第3章はかなり感情的、感覚的判断が論理の底辺となってしまっており、説得力に欠けています。また、19世紀ドイツの音楽がなぜ「崇高さ」を希求ことになったのか、その理由や過程が大雑把にしか扱われておらず、ロマン派的思考が時代の要求であったという側面は捨象されています。シューマンの文章が引き合いに出されていますが、それなどはロマン派音楽運動を推進するものとして当然と感じられる文です。今の我々の眼で見れば確かに偏狭な考えではあるけれども。

結末部分ではジャズまで引き合いに出し、大衆に広く長く愛される音楽には、分析できない、深層心理に訴えかけるものがあるのだと持ち上げますが、いやいやそこが感覚の問題であって、ジャズを万人に愛される「正しい」音楽であると仮定するのは、もはや19世紀のドイツ人とあまり変わらないのではないか?それまでの権威を否定するために新しいものに権威を与えるのはただの堂々巡りではないか。

本書前半の、モーツァルトなどのいわゆる大作曲家が生前は無名に近かったというようなエピソードは、読み物としてはなかなか面白いとは思います。著者と同年代の(つまり戦前生まれ)読者には慧眼ひらかれるものかもしれません。ただし読後には、この著者のドイツ人、さらにはドイツ人の生み出したゲンダイオンガクに対する憎悪に近い黒々しい感情のみが印象付けられてしまいます。
ベートーヴェンが嫌い・現代音楽が嫌い・・・そこから出発してそれを正当化するために歴史をつまびらかにしてみた、という著者のエッセイ的独白に近いです。論点・テーマ・趣旨が示唆にとんだ面白いものなだけに少々残念な一冊です。
4.0 反音楽史
オーソドクスな音楽書のアンチテーゼとして実に興味深く読んだ。「クラシックの凋落」がいわれて久しい。その原因は色々あげられるが、その一端をこの本は明らかにしてくれる。
4.0 もう少し気軽に音楽を楽しもう
 本書は、クラシックを権威的に崇拝するのはドイツ評論家の陰謀だ、と説く痛快な本である。

 18世紀の音楽の中心はイタリアであり、あのモーツァルトも音楽後進国の作曲家としてハクを付けるため、名前をイタリア風に変えた。バッハは無名のまま生涯を終えた。当時はヘンデルやハイドンの方が有名だったし、莫大な報酬も手にしていた。などという初めて聞く話が満載である。

 映画「アマデウス」では、モーツァルトの才能に嫉妬したサリエリが彼を殺したことになっているが、本書を読むと、音楽先進国のイタリア人で地位もあるサリエリがそんなことをするはずがない、という気持ちになる。

 作曲家中心の権威的な音楽史観のおかげで、譜面と違う音は一音も出してはならないという伝統が出来あがり、やがて衰退の一途を辿った。もっと演奏者が自由にふるまい、聴衆が楽しめる音楽を復活させるべき、と著者は指摘する。

 クラシック音楽を聞く人に“なんだかインテリっぽい”という雰囲気を感じ、漠然とした憧れでクラシックを聞き始めた人は多いと思う。

 私も「憧れ派」の一人だが、いやはやクラシックファンの先達というのはスゴイ人が多いのに驚く。高校の友人を訪ねた時、16歳で既にクラシックレコードを300枚も持っていた。会社の先輩には「フルトヴェングラーの現存する録音を全て集めるのが趣味」という人がいたし、「同じ曲でも指揮者や録音時期が違うと別物だ」と言ってマーラーの4番だけで20枚以上もLPレコードを集める人もいるそうだ。新聞で吉田秀和のクラシック評論を読んでみるが、何を言っているのかよく分からない。私から見ればスゴイ人たちは「マニア」の域に入っていて、とてもじゃないが同じ土俵で話ができない。知らずしらずのうちにクラシック音楽に畏敬の念を抱くようになった。

 そんな私も、この本のおかげで、もう少し気軽に音楽を楽しめるようになるかもしれない。

5.0 反音楽史を読む
 ここで問題となるのは音楽というよりも音楽史である。著者はクラシック音楽が衰退している現実を認め、ドイツの古典的作曲家を絶対化する音楽史観、さらにその基礎にある厳格主義的音楽理解にその原因を求めた。

 著者は歴史的方法を用いて音楽史をイタリアのオペラ音楽を焦点として再構成し、ドイツ器楽音楽を中心とする音楽史観にたいするアンチテーゼを提出する(第一部と第二部)。

 第三部では一八世紀のドイツ観念論と美学を背景に「美と崇高」の体現者とみなされるベートーヴェンが現れ、作曲家中心の音楽観が作られるとする。その後、シューマンはこの作曲家中心主義、さらには音楽美を譜面に内在させる見方を徹底し、「形式」、「作曲法」、「作曲者のねらい」、「精神」によって「よい音楽」と「悪い音楽」を区別するようになる。

 著者によれば、「よい音楽」と「悪い音楽」を譜面だけで判定する立場は、音楽美が演奏者と聴衆との関係、「音楽の場」において成立することを無視している。

 「ドイツ人がでっちあげた虚構を暴く」との言葉は挑発的である。このせいか、ベッカーやアインシュタインといったドイツの研究者しか扱われていないとの指摘もある。しかし、著者は、後進国ドイツにおいて発生した民族的覚醒の文化運動、ドイツ観念論とそこにおける美学、さらに文学のシュトゥルム・ウント・ドラングなどとの関連の中でドイツ音楽が作曲家中心主義的な音楽観を確立したことを述べているのである。

 さて、クラシック音楽が危機的な状況にあるのは事実である。しかし、その原因は著者がいう演奏家や聴衆を無視した作曲家中心の立場のためであるのだろうか。たしかに、音楽はまず知覚現象であり、だからこそダールハウスのいう「音楽の現象学」が成立する。その限りでは聴衆が楽しく愉快な知覚を経験できる音楽が大切であるというのは当然のことである。しかし、これが危機への処方箋になるのであろうか。

5.0 音楽を楽しもう
小難しいことは抜きにして、「音楽って楽しめれば良い。そこには上級も下級も無い」という筆者の言葉をストレートに受けとめれば良いのでは?クラシックを聴く人間はどこかで自分を「教養溢れる人間」と思い、「流行歌を聴く人間と一緒にされたくない」と感じているのでは?という考え方にも同感。(自分自身長年クラシックを聴いてきてややもするとそういった感覚に陥ることがたまにある(反省))そういう意味で著者が重点的に取り上げた時代、つまり「音楽を音楽として純粋に楽しめた時代」(18世紀)その時代について深く掘り下げた点は非常に興味深いと思われる。話はそれるが、これを機会に今のクラシックファンに、ロゼッティやC.シュターミッツ、L.ホフマン、ディッタースドルフ、ミスリヴェチェックやカンビーニやガルッピなどの音楽にももっともっと耳を傾けて欲しい。「機会音楽」だとか「精神性が薄い」だとか言われがちだが、「精神性」なんて聴き手の感じ方次第でいくらでも変わるわけだし。そして何も18世紀の音楽はハイドンとモーツアルトだけが産みだしたわけではないし。また、それら「大作曲家の陰に隠れた作曲家」の作品を聴くことで、あらためてモーツアルト、ハイドンらの偉大さも思い知らされる。「音楽が美しく純粋だった」時代に思いを馳せる、そんな機会を持ってみるきっかけとしては最適な書と感じた。軽い気持ちで読んでみるには大変楽しいものであることに間違いは無い。

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