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小説の誕生

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小説の誕生の商品レビュー

4.0 小島信夫『寓話』を復刊せよ!!!
小島信夫とのやり取りなどは「楽屋落ち」的な興味がある人にしか理解できないような部分もあるが、全体としては大変興味深い小説を巡るエッセイである。
ミッシェル・レリスの面白さを著者は懸命に伝えようとしているところなど、「面白そうだな」と思って、レリスの本を買おうという気にさせるが(文章の役目としては、それで十分かもしれないが)、保坂の文章からはあと一歩のところでその面白さが伝わってこない憾みもある。わかるような気もするがという、「人文へタレ系」(稲葉振一郎)の理解で留まってしまうのだ。これは評者だけの感想か? というよりこういう読みは保坂が本書をエッセイでもなく、評論でもなく、どちらかというと小説と言っている以上、唾棄すべき読み方なのかもしれない。
たとえば、レリスの本には悲惨なことも書いているが、読んでいると元気が出てくるとある。
それはレリスの「世界を肯定する」構えにある、としているが、保坂の『世界を肯定する哲学』という新書を随分前に読んでいたから何となくわかるが、レリスの『日記』がロングセラーになっていくような国であれば、日本は相当にいい国になるだろうとまで言われてみれば、
「何のこっちゃ」とでも言いたくなる。こういう文章は大西巨人とは正反対のスタンスである。この緩さというか脇の甘さは、彼の優れたエッセイである『世界を肯定する哲学』にまで疑問を抱かせかねない。これは文体の甘さというより、思考の甘さではないのか。まあ、それは同じことであろうが。

それでも、本書が面白いのは、やはり引用される文章が面白いからだ。小島信夫の学生時代の短編『裸木』の一部は本書で初めて読んだが、これは何という文章だろう。この作品に加えられた保坂の文章も興味深い。ここで保坂は天才(小島)は最初から天才だと言っているのだ。

小島の傑作とされる『寓話』や『菅野満子の手紙』は現在保坂が個人出版しているらしいが、版元は早急に再版の手段をとり、一般読者に手に取りやすくすべきだ。保坂の説明を読む限り世界文学中の世界文学ではないか!!! 保坂の再版したものが売れ残るって? 大丈夫だって、マニアが買うから。
『抱擁家族』は紛うかたなき世界文学であった。
5.0 問い、問い、問い、…やっぱり問い
といったことが多い読み物です。
この、といったこと、というのはタイトルの「問い」でもあるし
といったこと、そのものでもあります。
時制に気をつけながら書いておられるから、そういったもろもろの
特徴があるのでしょう。
泥の中で転げまわるような、
というよりも泥の中で転げまわる誰かの姿を見てわくわくする感じを
探すような、
言葉にするとそれが抜け落ちるから止めてほしそうな半眼で見られている
なかで中身を希求する過程のような、そんな読み物でした。

といったことを書くあいだに、書いている自分から抜け落ちてしまった
なにかがあるはずで、その感覚を「読みたくない」人に読んで欲しい、
そう思って書いています。星五つには、特に意味はありません。
4.0 「小説」は息づき、そして、「生きる」
この世に「誕生」した「小説」が確かな「呼吸」をして
「生」をまっとうするということを考えさせられました。

『小説の誕生』とは何か。
『生まれるもの』とは何か。

その答えがここにあります。
4.0 すぐれた「芸術論」
この本で著者は沢山のことを伝えようとしているのではなく、小説の芸術性について執拗に言及している。もちろん芸術の定義みたいな所からはじめていて、例えばこんな風にある。「あるいは本当は芸術こそが最も無防備にすべての人に向かって開かれているのだが、それが無防備でありすぎるために少数の人しか近づかないと言えばいいか。」(本文引用)。

芸術作品には「解釈」がガイドのように必要とされていたり、分かった、分からないなどの「理解」を前提とすることで存在している面がある。けれど芸術を見て受け取った感情は、言葉に表せるような小さなものではなくって、「何か」でしかないのではないか。音楽を聴いて感動したときの「すばらしい」という言葉が、とても小さな「感情」しか含めていないように。

確かに「無防備」を前にした時、僕らはその感情を言葉に出来ないことで戸惑う。けれど感情を第三者へ伝える言葉が見つからないからといって、わざわざ表現出来る「小ささ」まで変形させてしまうのもおかしい。そこに小説の役割があるようだ。

小説は「言葉」を表現手段としながら、本来言葉によって表せていなかった領域にまで拡張させた「芸術」なんだということ。保坂和志が芸術への言及にこだわる理由はそこにあって、「小説とは」を語りだすためにあらゆる芸術的な題材を使ってそれに近づこうとしている。

そんな理由でこの著作はとてもすぐれた「芸術論」でもあるのだと思う。映画も小説も、現代アートも写真も、これから色んなものを見たり感じたりする時に、著作の一部を参照しながらフィードバックしていけば、「小説(言葉の領域を超えた表現)」というものにもっと近づける気がした。
5.0 今回の方がおもしろかった
単純に、小説をめぐる思考、という感じでよかった。はっとさせられるアフォリズム的な問いかけが随所でみられながら、けれど、大抵の箴言集のように断片的ではなく、あくまでもその「決めの一文」にいたるまでの思索が、著者自信のうねうねとした文章と、著者お気に入りの作家や思想家からの引用を通して追体験できるようになっているのが素晴らしく感じた(著者の引用は魅力的で上手だと思う。ときどき長すぎるけれど、しかし原書にあたってみたくなることが極めて多い)。この辺が、たぶん著者のいうところの小説的なおもしろさが存分に発揮されている所なのだろう。
あえてタイトルに引き寄せて言えば、この本のなかで語られている思考のうちの特に重要な部分は、小説が、真に優れた小説がこの世に産み出される時間の特別さ・可能性について解説し、それが生まれてきてくれたことのありがたさに対していわば感謝をするための言葉なのだと考えたい。「幸せとか不幸せとか関係ない世界をみんなで作りましょう」という粋なスピーチに好意的な反応を示し、人間であることのくるしさをしかしくるしみのままに肯定しようとする意志の力を賞賛し、そして現実には起こらなかったことを現実に起こったことにたよらずにイメージするにはどうしたらよいかを探求し、その道に至るための言葉を夢想する。
ああ、無償に小説が読みたくなる。人間の脳内に小説モジュールのようなものがあるとしたら、この本ほどその領域を活性化してくれる文章の集合は、なかなか書かれてはいないだろうと思う。

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