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星新一 一〇〇一話をつくった人

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星新一 一〇〇一話をつくった人の商品レビュー

4.0 星氏の苦悩・・・ファンとしての悔しさ・・・
この本は、ショートショートの第一人者でありながら、ご本人亡き今も随一の作家である
星新一氏の生涯を氏が遺した大量の「資料」と関係者への取材を元に、ルポライターの
最相氏が精魂込めて纏め上げたものでありますが、氏の作家デビューが日本のSFジャンルの
誕生と発展に大きく関わっている為、氏の生涯と平行して日本におけるSFジャンルの黎明期
を詳細に知ることが出来、それがこの本の評価を高めている要因の一つとなっています。

ここからは私の個人的な感想なのですが、
今尚これほどまでに読まれ続ける氏の作品が、文学界では一向に高く評価されないことに
驚きました。そして、氏は苦心しつつも非常にストイックにショートショート1001編の
創作に作家としての人生注ぎ込みます。この流れが私としては、結果的に氏をショート
ショートに縛り付けてしまったのではないか?と思えてならないのです。
もし文壇において、早い時期に少しでも高く評されていたら、氏はショートショートに
縛られること無く、その才能を発揮した長編や伝記もの等をもっと多く遺したかもしれ
ない・・・。そう思うと、ファンとして非常に悔しい気持ちが湧き上がります。

未読の方は、氏の「明治の人物誌」「アシモフの雑学コレクション」「声の網」辺りを
是非読んで頂きたい。氏の文章の上手さや、驚異的な未来への先見性を垣間見ることが
出来ます。
5.0 「星新一」に関する、貴重な資料的作品
本を読む人なら誰でも一度くらいは彼の作品を手に取ったことがあるので
はないだろうか。発想の面白さ、奇想天外な結末は、多くの人を魅了した。
テンポがよく軽快な文章から、星新一自身もきっとそんな性格なのだろうと
勝手に思っていた。だが、実際は大きく違った。製薬会社の御曹司でなに
不自由なく育った幼年期。父の突然の死により社長になった苦悩の20代。
そして、そこから逃れるように書き始めたショートショート。彼が望む
望まないに関わらず、「星新一」はSF界の第一人者になっていくのだが・・・。
アイディアが枯渇し「もう書けない。」とつぶやく日々、自分だけおいて
行かれるという焦燥の日々を経て、彼はショートショート1000作に
向かって突き進んでいく。それは命を削りながらの作業だった。この人は
こんなにも苦悩し、傷つきながらショートショートを書いていたのか!
遺された膨大な資料から、最相葉月は見事に「星新一」の実像を描き出して
いる。それは、外見や作品からだけでは決して想像することのできないもの
だった。一人の人間としての「星新一」がこの作品の中にいる。
読み応えがあるというだけではない。星新一を知ることができる貴重な資料的
作品だと思う。
5.0 「純文学」に立ち向かった「ショートショートの神様」の苦難
資料の徹底的な博捜と、関係者への綿密な取材によって、「ショートショートの第一人者」星新一の実像に迫った力作。小学校時代から調査するという念の入れようで (星は長い作文が書けなかったらしい)、飄々・恬淡・奇矯といった表面的なイメージの奥に隠された人気作家の焦燥と苦悩を炙り出している。

星新一の家族関係や特殊な境遇は『人民は弱し 官吏は強し』やエッセイなどで彼自身がしばしば語ってきたが、その中で明かされなかった、異母兄との関係や星製薬の内情などの「秘密」を本書は容赦なく暴いている。

そして「星製薬の御曹司」という肩書きは良きにつけ悪きにつけ、星新一の文筆活動に大きな影響を与えたことが良く分かった。星製薬を潰したという負い目、社長時代に多くの人間に裏切られたことから生じた人間不信が、星の性格に暗い影を落とし、感情表現を省いた独特のクールな文体を生み出した(この点は星自身もある程度、認めていたが)。
逆に、固有名詞を排した無個性の登場人物を描くことで知られる星新一が、実は自分をモデルとした人物を作中に登場させていた、という指摘は新鮮である。星製薬社長としての過去を振り払おうとすればするほど、その影は執拗にまとわりついてくる。そんな皮肉に星新一本人も気がついていたのだろうか。
一方で、彼の毛並みの良さが、キワモノ扱いされていた黎明期の日本SFの地位向上に役立ったという。
当時におけるSFの社会的評価を考える上で貴重な事実発掘と言える。

また戦後日本のSFの創始者である星新一を通じて、日本SF発展史を語っているところも興味深い。従来、この種の「日本SF史」は専ら、黎明期を支えた当事者たちの回顧録によって占められていたので、第三者が複数関係者の証言を突き合わせて客観的に分析した点には大きな意義がある。



しかし何と言っても、本書の白眉は、星新一に対する社会的評価の変化を具体的に明らかにした部分であろう。今では信じられないことだが、デビュー当時の星新一は安部公房と並び称される文壇の新星であった。文壇の長老たちからは「人物が描けていない」などの酷評を受けたものの、若い世代からは、無駄を削ぎ落とした都会的で洗練された文体と核心を衝く卓抜な文明批評が斬新なものとして受け止められた。人間関係の描写に終始する泥臭い旧来の日本文学とは一線を画した、「科学の時代」に相応しい新しい文学として認識されたのである。そして星自身も当初はショートショート専門の作家で終わるつもりは毛頭なかった。

ところがSFの大衆化、量産に伴うマンネリ化(ただし量産は星本人の本意ではなく、ショートショート依頼の殺到と、原稿料の安さが原因)、読者層の低年齢化に伴い、文壇での星新一の評価は下落する。時代の寵児は一転して、文学賞から無縁の存在になった。SF界においてすら「天皇」と祭り上げられつつも、中心的存在ではなくなっていく。酷使された星はアイディアの枯渇に悩まされるが、「ショートショートの第一人者」としての地位を守るため、「ショートショート1001編」を目指して、それでも書き続ける。だが、ようやく達成した空前絶後の偉業も、文壇的には全く評価されなかった。


「親切第一」というサービス精神ゆえに「ショートショートの第一人者」という肩書きに生涯縛られ続けた点に、筆者は手塚治虫との共通点を指摘する。しかし本書を読む限り、手塚との共通点はそれだけに止まらない。ジャンル創始者としての自負、「子供相手の商売」と見下されることへの不満と反発、神格化されつつも人気面で後輩に抜かれていくことへの焦り(星の場合は小松左京・筒井康隆、手塚の場合は石ノ森章太郎・水木しげるなど)・・・筒井への嫉妬、晩年になっても「どうして自分は直木賞をもらえないのか」と愚痴をこぼした、「文学的評価よりも売り上げ」と自己を卑下した、などのエピソードには意外の観があったが、偉大な功績に比して報われるところが少なかった作家であった証左とも言えよう。

私の父はかつて、星新一にサインをもらったことがある。
そのサインの言葉は「想像力を失えば、思想の自由も無意味となる」であった。
本書では「SFなんて文学じゃない」と言う編集者に対して星新一が、
「文学が想像力を否定するものとは知らなかった」と反駁するエピソードが紹介されているが(370頁)、
こうした「純文学」の側からの無理解に、まさしく己の想像力ひとつを武器に立ち向かっていった作家が、星新一だったのである。
5.0 知られざる星の素顔
本書はその星新一の生い立ちと父親,生涯つきまとう星製薬との関わり,そして作家’星新一’と日本SFの誕生とその生涯をまとめた多くの証言と資料に基づいた評伝であり,傑作である.星新一の作品はショートショートを問わず長編やドキュメンタリーでも,簡明な文体に醒めた視点が特徴であり,私はその作風から長年,飄々とした印象を持っていた.確かに,SFファンにとっては宇宙塵やSF作家クラブなどの例会における星の言動はよく知られていたことである.しかしながら,本書では確かに星のそのような面があったことを述べながら,それとはまったく異なる星の一面を描いており,それは私にとっても大きな衝撃であり,それは多くの他のファンも同様ではないであろうか.

そもそも,私が星新一のショートショートに出会ったのは小学生であり,やがて星から離れファンタジーやサイバーパンクに移った.星を読まなくなったのは,この作家は子供向けであるというイメージがどこかしらあったためであろう.星の作品には血湧き肉躍るわくわく感や男女の機微はなく,思春期の少年には物足りなかったろう.また太宰や三島のような高尚な文学とも感じられなかった.とはいえ,書店では平積みも多く大変売れていたという印象がある.

しかしながら,本書はそれこそが星の苦悩であったと指摘する.確かに売れ続けてはいても,所詮は子供向け,ただのエンターテイメントと見下され,かつては直木賞の候補にもなったが受賞できず,その後もほとんど賞らしき賞はなく,文壇に認められぬことを愚痴り,苦悩していたことは,一般的に星の作品から受けるイメージとはまったく異なるものである.名誉や評価を欲した醜さ,そして晩年の作品の生き残りをかけた手直しは,ほとんど妄執ともいえる執念を感じるのである.

まったく「人間を書いていない」と言われた星の,なんと人間的であることか!

作品から読み取ることのできぬ作家の素顔,それは星が書き手として一流であることの証である.しかし,本書で明かされたその素顔との差はあまりにも大きい.

今,あらためて『最後の地球人』(『ボッコちゃん』収録)を読み直してみた.物語のラスト,聖書から引用した「光あれ!」という言葉を原稿用紙に記したとき,星は何を思ったか.SFが遂に文学として認められる未来を見たのだろうか.
5.0 SFの人、必読
ご他聞に漏れず、読書遍歴の入り口に、星新一が居た。他に比較するものもないうちから、高級品を食べてしまったことが、どれほど読書の味覚を狂わせてしまったか、と愚痴を言っても仕方がない。
さて、星新一が、星製薬の御曹司であり、戦後会社の借金で苦労した、という話は知っていたが、では具体的にどういうことがあったのか、知るすべがなかった。
この本は、ファンが気にしつつ知る由もなかった星新一の作家になるまでの履歴を描いている。いやあ、大変だったんですねえ。と言いたいところだが、上流階級の暮らしぶりや人的交流を知れば知るほど、そんな苦労、苦労じゃないんじゃね?と感じて仕方がない。
この本を読むだけだと、結局回りの人たちに守られた御曹司、というイメージが固着しそうである。もうちょっと苦労を具体的にドロドロと描くことは出来なかったのだろうか?
しかし、デビューしてからの星新一がどのような人物であったかを知るには役に立つ評伝である。他のSF作家に慕われたというその性格を色々なエピソードから浮かび上がらせる手腕はたいしたものである。また日本SF黎明期がどのような雰囲気であったかを上手くまとめていると思う。そっちの苦労のほうが興味深かったともいえる。
それにしても、SFの人たちは、元祖オタクだったのだなあ。

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