茶から見た近代
本書は二部から成ります。第一部は英国での紅茶の普及を欧州人の茶との出会い(16世紀中頃)から、物質的奢侈(砂糖とミルク)として特徴づけられる紅茶文化の成立、そして英国が茶葉をインド植民地で自給するまでを描いています。第二部は日本茶の世界市場への進出と、その挫折を扱っています(開国から第一次世界大戦まで)。日本もまた一次産品の輸出に甘んじていた時代があったことを確認させてくれる第二部も資料的価値が高いのですが、とくに読み応えがあったのは第一部です。
茶葉も砂糖も生産できない英国で紅茶文化が花開いたのはなぜか。茶葉の供給地だった中国の半植民地化、カリブ海の砂糖植民地でのプランテーション労働など、筆者は「近世ヨーロッパの資本主義の形成とそのグローバルな展開」に紅茶が密接に関わっていたことを、統計資料を示しながら丁寧に論じています。
新書という形式も加味すれば費用対効果がたいへん高い一冊です。
茶という窓からのぞく鮮明な世界史の姿
最近はこのような生活史・社会史からの著書というのはわりと珍しくもないのだが、1980年初版となるとなかなか先見の明のある著述である。茶と言えば緑茶であろうと紅茶であろうと身近な存在である。
また欧米で茶と言えば紅茶というイメージである。
しかし欧米でも最初から茶は紅茶というわけではなかったこと、欧米諸国が最初に茶に触れたのは中国からでなく日本からであったことなど茶の歴史は新しい発見に満ちている。
また、第二部の世界市場における商品作物としての茶についての記述、日本と茶の世界市場の記述も新鮮な知的好奇心に満ちたものである。
大航海時代以降、各地で比較的孤立していた文明同士の交流が深まり、世界システムが形成されていったというのは定説となっているが、茶という身近な窓から日本を始めとするアジアと欧米の交流の実態と深まりを記述したこの書は歴史(特に近代史)に興味を持つ人々にとって必読の書といえるだろう。