レベルの高い啓蒙書
政治思想や他の政治システムとの兼ね合いで選挙制度を考えねばならない、と著者は力説する。選挙制度にまつわるよくありがちな誤解を正しており、啓蒙書としてよくできている。統一地方選の前に選挙制度の意味を再考するには恰好の一冊。これまでは、瑣末的な専門的知識に拘泥し視野狭窄に陥ることの危うさが主張されてきた。が、それは結果的に専門知の軽視につながってこなかったか。タコツボ批判は結果的に、赤子を産湯と共に流してしまった。いまや書店には、政治学を知らない人の政治論、経済学を知らない人の経済論、法律学を知らない人の法律論が溢れている。どれも、右と左のイデオロギー先にありきのくだらない本ばかりだ。
経済学者野口旭氏の一連の仕事で代表できるように、近年になって漸!く、近代知の復権ならぬ専門知の復権が起こってきた。本書もまた、その流れの中に位置付けることができる一冊だ。解説が安心して読める。
ところで、昔の啓蒙書は「啓蒙書なので」参考文献や注が省略されていることが多かった。本書巻末には参考文献表が付属しているが、独学の便という意味で、啓蒙書にこそ参考文献表は必要だろう。評価したい。
なお、首相公選論と選挙制度の絡みでは、同じ中公新書の『首相公選を考える』や、日本評論社『いま、憲法学を問う』収録の長谷部恭男教授の対談を読まれるとよいだろう。
マイナス面はあれど、有権者は必読
本書を買う必要があるのは、
新聞の政治面をつい見てしまうような政治に興味のある人や、
政治学を学ぶ学生などだ。
それ以外の人は、残念ながら買う必要はない。なぜなら、本書の内容は新書としては専門的になっているし、
本書の主題である選挙制度は、複雑に入り組んだものであるからだ。
もちろん、著者は、それを大変平易な言葉で分かりやすく解説している。
しかし、事前知識のない一般の人が、
スラスラとこの新書を読み終えるほどの内容であるとは思えない。
本書を手ごろな新書として扱う英断に経緯を表したいが、
率直に言って、どこまでその狙いが達成されるかは疑問だ。
選挙制度を知ろうという意欲に燃えた人でない限り、
最後まで読みとおすのは、大変に根気のいる読書になると思う。
にもかかわらず、私は本書をより多くの人に読んでもらいたい。
選挙制度論議で陥りやすい罠を十分に紹介しているからだ。
私のような半可通には、目から鱗の落ちる記述が、無数に出てくる。
日本の政治が、今よりもまともになるためには、
本書がベストセラーになるぐらいの読書を、国民がしなければならない。
それにしても、この本は書名に親切心が表れていない。
「日本の選挙制度」としたほうが、内容に合致する。
選挙というよりも、その裏に隠れた思想や理想に焦点を当て、
翻って、日本の選挙制度論議に最も欠けていたものが理念であることを、
教えてくれる。