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キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

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キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)の商品レビュー

5.0 満洲を深く理解し考えるには欠かせない一冊
重厚な内容と練り上げられた考察から、もともと満洲本の決定版的新書だったと思うが、増補版となったことで内容がさらに充実した。法制史の視点から満洲の建国から崩壊までを追う著者の視点は終始ブレがなく、大量の資料を読み込みつつも、それらが消化不良になっていないのがすごい。そのおかげで、忽然と姿をあらわし、そして一瞬にして消え去った満洲国の全貌を過不足なく捉えることができる。同じ時代に華北以南に並存した中華民国との対比も、しっかりとした分析がなされていて読み応えがある。最後まで熟読することで、表題のキメラがまさに満洲を形容する上で最適の言葉であったことを実感する。渾身の力作だ。戦後60年以上たった今日、満洲を見つめ考え直す上で絶対に欠かすことのできない本だと思う。
4.0 満洲国を知るために
満洲国の歴史的評価はすでに決まった部分もあるだろう。
それは日本の傀儡国家であったという点である。
まさか満州に住む人々が自発的に建国したという話を信ずる人はいないだろう。大陸に勢力を扶植したい日本(それが朝鮮防衛のためか中国進出のためかは横に置く)、その拒絶し得ない政治の流れの成果が満洲国であった。その満洲国の姿は不自然な複合体であるキメラに擬されるものであった。

この本も一貫してそのような立場に立っている。というより「どのように傀儡としての満洲国が建国されたのか」という過程を政治史・法制史の視点から丹念に著述したという点が特長である。建国への過程が主であり、その変遷や崩壊については意外に感ずるくらい淡泊な著述である。
基本的には日本は中国に侵略したという視点からの著作であるが、この書によって満洲国建国に関する概略はほぼ網羅できるといってよいだろう。

今回、増補された補章と増補版のためのあとがきによって本書はさらなる深みを得た。日本人として満洲国をどのように背負っていくかという視点である。
Q&Aで展開される補章により「日本人からの視点」がより強く打ち出されると同時に著者の立場がより明らかになっている。さらに著者の個人的体験もふまえたあとがきは日本人にとっての満洲国の重みを考えさせるよい結文となっている。
4.0 情念も
人類史上の一大イベントといえば,一国を新しく作ること。満州国はまさにその一大イベント。
だけあって,そこに渦巻く野望陰謀,魑魅魍魎,ちょっとやそっとじゃ描ききれない底なし沼。しかし,なぜか今日の日本では,そのイベントの名残さえ表立って現れない,語られない。
そこで本書は,満州国の基本的性格を主に政治史・法制史として明快に描いてみせることで,満州国の何たるかを現代の我々に教える。その切れ味は抜群で,一読すれば満州国のイメージを各自形成することができるだろう。初学者にも優しいQ&Aもイイ。
ただ,あまりにもイベントドリブンな歴史ではある。そこに至らしめた個々人の想いまでは描かれていないため,何があったのかの理解はできるが,なぜ起きたのかの深い理解にはたどり着けない。特に満州国こそは,政財軍の要人のみならず,市井の一人一人も含めて,それぞれのとてつもない激しい何か怨念とも呼べそうな想いがあってこそのものだったろうから,もう少し,情念の部分にまで踏み込んでほしかった(この厚さの新書では無理ですが)。
満州知りたきゃこれからどうぞ,と,左右問わずお勧めしたい。
3.0 日本人にしては中道左派系
割合淡々と事実を記述しているので、満洲国に興味があり、少し知識をかじっていてもうちょっと勉強してみたいなという人にはおすすめします。ただ満州国を王道楽土、五族協和の理想郷であったという説に立っている人にはお勧めできません。(ために私の評価は必ずしも高くはないのです。)
5.0 満洲の叫びを支える骨格となりうる理論的論考
満洲国が、どんな理屈によりできることになったのか、どのように作られたのか、どのようにその13年5ヶ月の運営がなされ、壊滅に至ったか、そして、補章での歴史的意義の追求。

満洲経験者はまだ多く、あれから60年を経て、その声を聞くことも多くなっている。経験談、ドキュメンタリーなどに接すると、その過半は、悲惨、悲劇である。時には、辛いことは思い出したくない、という声、楽しかった思い出も少なくない。それら血の叫びや肉声に理論で骨格を融合できると、満洲とは何だったのか、私たちにとって満洲とはどういう意味を持つのか、などが見えてくる。血肉と骨格とがしっくり噛み合うと、それは真実味を醸すが、特に骨格が好い加減だと血や肉としっくりこなくて簡単にくず折れる。その意味では、扶桑社「新しい歴史教科書」は面白おかしくはあれ、その骨格は血や肉にそぐいにくい。

しっかりした骨格を提供する論考は数多存在するが、本書はその骨格を構成する代表的論考といえるのではないか。「キメラ」というタイトルに背伸びしすぎを感ずるのは、評者の至らぬところかもしれないが、何はともあれ、著者渾身の満州論である。

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