新著のふりをして売るのは読者に対して非礼ではないか?
アカデミー賞をめぐるハリウッドの愛憎うずまく裏話エピソードを多数集めた本です。裏話というのは大抵どんなものでも興味深いものですが、ハリウッドの著名人のものとなればなおさらのこと。著者は平易な文章で大いに楽しめる一冊に仕上げています。 しかしこの本には大いに苦言を呈したい点があります。
アカデミー作品賞を受賞したコメディ映画がとても少ないということを論じた章にこんな記述がありました。
「そして80年代は現在までのところ(中略)『愛と追憶の日々』があるだけ。」(172頁)
実際には89年に「ドライビング・ミス・デイジー」が作品賞を受賞しています。ということは、2004年発行と奥付にありながら本書は89年よりも以前に書かれた原稿をまとめていることが読み取れます。それもそのはず。著者は90年に中央公論社(当時)からほぼ同名の著書を出しています。この文庫はそれをもとにしている本だということがようやく巻末の解説によって初めて分かるという具合です。
今年再出版するにあたって、手を加えた跡は確かに見られます。授賞式を欠席し続けていたウッディ・アレンが2001年には珍しく出席したこと(120頁)や、「キリング・フィールド」の助演賞俳優ハイン・S・ニュールが96年に射殺された事件(155頁)などにも触れています。それでも全体的には90年代以降の記述に物足りなさが残ります。
既に物故者となったマルチェロ・マストロヤンニが受賞式で「グラーチェ」というところを見たいものだ(198頁)という記述も残ったまま。10年以上も前の本を表紙とサイズだけ変えて再出版したというお手軽さが透けて見えます。
出版社と著者が読者(=お金を払って本を買う人)に対してどういう姿勢でのぞんでいるかということが自ずと分かります。