愛と欲望の村上氏、社会へのコミットメント試行錯誤
もし読書が好きな人たちを対象に村上龍氏の本が好きか嫌いかという問いを投げかけるならば、明快なイエス、ノーが返ってくるように思える。鮮烈なデビュー以来の独特の体液のようなドロリとした感覚に心地よさを感じる人もいれば、嫌悪感を感じる人もいる試金石となっているように感じる。90年後半から村上氏の言論活動に大きな変化が現れた。官能と欲望とテニス観戦記の著作から、世の中の庶民の暮し・経済に強く関わりを持とうとする著作を精力的に開始して、昨今では「13歳のハローワーク」に代表される社会への問いかけや経済の専門家を相手にメールマガジンの発行も行っているのは知る人には知っている活動である。
レビュアーは村上氏の社会・経済への関心の徴候を80年代の作品の「愛と幻想のファシズム」に感じた。経済に関わる記述に村上氏が勉強をして書いた感触があったからだ。
本書は上記メールマガジンをベースにした経済についてのエッセイである。レビュアーは何故、村上氏が、現在の活動を始めたのか、理由が知りたくて、読んだ。本書で村上氏がアダム・スミス、リカード、ケインズ、マルクスと言った歴史に残る経済学者の著作を買い込んで勉強し、日々の暮らしの中で経済について試行錯誤の自問自答を繰り返している事はよくわかった。村上氏の言動のモティベーションについては、うんざりするほど取材で尋ねられる事を巻頭でふれている。そして、どうして作家が金融・経済に興味をもつことにきっかけが必要なのかと、問い返している。
レビュアーの疑問は本書では得られず、村上氏も本書で何か明快な経済政策を提言しているわけでもないが、村上氏の題材に対する動物的嗅覚と自ら試行錯誤して考え続ける姿勢に、シンパシーを感じた。